※ホストとホステス




「はじめさん。マニキュア塗って頂けませんか?」


「........構わん。.....色は。」


「あの、お任せします。.....出来れば足も。」


「わかった。.......今日は青でいいか?」



気がつけば千鶴の爪はいつも俺が塗っていた。

色はいくつもある瓶から好きな色をひとつ。


最初は慣れない作業も毎日繰り返していると日課のひとつになってしまった。



「以前はよく飽きないものだと思っていたが、案外楽しいものだな。」



トップコートの乾いた指先は宝石のように輝いている。



「塗り方や色でこんなにも変わるとは思わなかった。」


「ふふっ、はじめさんは手先が器用ですから助かります。」



そう言って笑う千鶴は気づいていないが、俺が爪を塗る時は必ず小指に桜を描く。

“何か模様を描いて欲しい”と言われ、なんとなく描いたものだ。

ただの自己満足だが、店に行ってそれを見ると何故か安堵する。


総司は「それ所有印って言うんじゃないの?」と呆れていたが、別に所有印でもかまわない気がする。



「あの、はじめさん?」


「なんだ?」


「ご迷惑かもしれないんですけど......もし、同伴とかなかったら晩御飯食べていきませんか?」


「作ってくれるのか?」


「はい!.....簡単なものしかないんですけど。」



普段は同伴だの色恋で早く出勤しなくてはいけないが幸い今日は何もない。



「ここのところ外食ばかりで胃が参っていたところだ......作ってくれるか?」



「はい!!」


調理の動きにあわせてひらひらと描かれた桜が舞う。


ぼんやりとそれを眺めながら、俺は小さく自嘲した。



指先の所有印

(それは確固たる意思のある印)


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