とくんとくん、と自分のものではない鼓動が聞こえて、千鶴はぱちりと目を開いた。まだまだ溶けそうになるくらい暑い夏の朝。室内はガンガンにーラーがきいており、くしゅんと小さな嚔がひとつ。朝日がのぼるにはまだ間がありそうな、薄暗い部屋の中。室内は静まりかえり、耳鳴りがしそうなほどだ。そんな、静かすぎる時間の中に、耳に滑り込んできたやわらかい音。


ぱちり。


開いた目にまずうつったのは、さららさらと流れる赤い髪だった。千鶴の目と鼻の先には、くっきりと太く浮き出た鎖骨。向き合って抱きしめられたまま眠っていた為に、顔と顔とがひどく近い。段々とそれが恥ずかしくなった千鶴は少し態勢を変えようと傾げた顔が、目の前の首筋に触れた。唇に一瞬だけ、彼の熱が残る。


「…っ…!?」


途端、ぐるりと視界が反転する。目にうつるのは、見慣れない天井。と、まだ眠そうに目を細めた左之助の、少し意地の悪い笑顔。千鶴の顔の両脇に手をついている。逃げ場はここにはなかった。


「……起きるなり首筋にキスなんて、ずいぶん積極的になったな千鶴。」

「…え、あ、違いま…んっ」


誤解だと発しかけた言葉の続きは、ぱくりと左之助に飲み込まれてしった。それでもついつい、千鶴は条件反射で目を閉じてしまう。左之助のキスはいつだって優しい、だから拒む理由などない。唇から、ゆっくりと口内に侵入しようとする温い舌にぎゅ、と目をつむる。左之助は上顎をひと舐めして、くまなく歯列をなぞり、引っ込みそうになる千鶴の舌を易々と捉え、甘く噛んで。激しくも優しい、いつもの、左之助のキスだ。口を離した左之助がぺろりと唇を舐めて、笑う。


「お、おはようございます…。」

「嗚呼、おはよう。」


未だに熱に浮かされ、ぼおっとする頭は追い付かない。左之助は千鶴が朝っぱらから可愛いな、と喉の奥で小さく笑っている。左之助は千鶴の胸元に顔を埋めた。甘えるように頬をすりよせられ、左之助の髪が微かに肌を撫でる。くすぐったいその感触に千鶴も少し笑みをこぼして、そうっと、赤い髪に指を絡めた。するすると滑らかな左之助の髪は、指先から逃げるように流れる。すると、左之助は少し顔を上げ、ちゅ、と軽い音をたてて白い首筋に口付けを落とした。そして千鶴を蕩けそうなほど優しく、甘い視線で見つめながら、肌に触れそうな位置で口を開く。


「千鶴、しようぜ。」

「…な、なんでですか…。」

「千鶴がかわいすぎる。嫌か…?」


ずるい、ずるいですよ。そんなに目で見つめるだなんて、自分を気遣ったりするなんて、本当にずるい。嫌だなんて、左之助相手にそんなこと、思ったことなんて一度もないのに。さっきのキスでもう既に、自分の身体は火照ってしまって、熱くて、すべてが。結局、千鶴は左之助には勝てなかった。


「……いいですよ。で、でも!優しくして下さいね?」

「嗚呼、当たり前だろ。」


そう言って、白い首筋にキスを一つ。















(0904)欲情する白い首筋

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