どうしよう。どうすりゃいいんだ。


「平助くん?」


覗き込んでくるその顔に、オレの心臓はありえないくらい高鳴っている。黙ってたら聞こえちまってそうで、何か喋らねぇとって思うのに何も口から出てくんない。別に二人で出かけんのなんて初めてじゃねぇし、何度も手だって繋いだことだってあんのに、今日は自分でもどうすりゃいいのかわかんねぇくらい、緊張している。だって。そんな。千鶴が女の格好してくんなんて。反則だろ、それ。


「い、いや、なんでもねぇよ!」
「でもなんか……」
「ほら、行こうぜ!あそこでなんか食うか?!」
「う、うんそうしよっか」


じゃあ行くぞと手を引く。千鶴の格好がいつもと違うことも忘れて。思い出したのは名前を呼ばれてからで。待ってと言う声すら聞こえないくらい、オレは混乱していた。わりぃと謝る時ですら千鶴の顔を見れなくて情けなくなる。そのまま手を放すと一瞬千鶴は寂しそうな顔をした気がしたけど、すぐに笑顔になって行こう?と言われて気のせいかと思った。実際は、気のせいなんかじゃなかったんだ。
店に入ると適当に食いもんと茶を頼んで息をついた。これからどうすっか。このままは駄目だ。だけど考えても何も出てこなくってオレはまたため息をつく。それを勘違いしたのか、千鶴はごめんと言った。慌ててちげぇよと言っても表情は曇ったままで。こんな顔をさせるために出かけようって誘ったわけじゃない。千鶴が女の格好をしてきてくれたのだって、すっげぇ嬉しかったんだ。それは、どうやったら千鶴に伝わんだろ。言葉にするだけじゃ、駄目だ。このままじゃ、駄目だろオレ。


「千鶴、こっち向け」


意を決して俯きかけていた千鶴の頬に触れる。そのまま顔を近づけて額をくっつければ千鶴は目を見開いた。けど、そんなことは今気にしてらんねぇ。気にしたら、動けなくなっちまうし。


「ごめん」
「ど、どうしたの急に……?」
「あー、とにかく!ごめん」
「………うんっ」


オレが謝った理由がわかったみたいで、千鶴は頷いてくれた。けどしばらくそのままでいたら照れてんのか恥ずかしがってんのかわかんねぇけど、顔が赤くなっていて。もしかしてオレも、とか思わなくても絶対オレの顔も赤いはずだ。けど後悔はない。こう思い切ったことでもやらねぇと、何もしないで終わっちまうことが多いから。だからいいんだと自分に言い聞かせた。
伝えたいことも言ったし、額を離そうとすると頬に添えていた手を掴まれた。え、と声を出すと名前を呼ばれて。さっきっからずっと鳴り続いていた心臓がまた音を大きくする。オレの名前を呼んで黙った千鶴は、ずっとオレの方を見ている。これは、そういうことなの、か?なんて。考えるよりも先に身体は動いていた。










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -