友達、見つけた





それから二人で無言のまま荷物置き場まで戻った。
過呼吸気味だったのも収まった。






 荷物置き場では彩斗ちゃんだけが座っていた。






「戸宮、愛之助たちは?」





 真広がボソッと言う。





「…そこ」





 と、目の前の海を指さす。
ザッザッと真広はそっちにむかった。
残されたあたしは彩斗ちゃんの隣に座った。





「…なにかあったのか」


「な、なんにもないよ…あはは」


「…そうか」





 笑ってごまかす。
彩斗ちゃんは自分のサラサラの髪を触る。





「あっちには行かなくていいのか?」





 あっちとは真広たちのことだろう。
行けるわけないじゃん。





「いやぁ…あたしも休憩!」





 無理矢理明るく返す。
あれ、なんで隠すんだろ?





「…なんか買いにいくか?」


「うん!丁度お腹すいてた」





 立ち上がって海の家までいく。
中に入ると柄の悪い高校生くらいの人が騒いでいた。
酔ってるのかな…?
そんなこと気にせずずんずん進む彩斗ちゃん。
あたしはその背中についていく。





「おー、女の子きたきた」


「いーねー」





 なんて声が聞こえた。
ドキドキした。





「なに買う?」


「え?!あぁ、焼きそばがいいかな」


「わかった」





 彩斗ちゃんが注目する。
それをぼーっと見つめる。
後ろのお兄さんたちの会話が耳に入る。





「重そうだねぇ持ってあげよっか〜?」





 なんてチャラついた男性が彩斗ちゃんに近づく。
どうしよう、どうしよう?!





「暑苦しいから近づかないでもらえるか?」





 ちょ、彩斗ちゃんそんな挑発しないで!!
どうすればいい?
真広たちに言えばいい?
いや、でも…。





「離せ」





 彩斗ちゃんの腕をつかむ男性を睨む。
あぁ、どうしよう、これやばいよね?!





「一緒に呑むー?」





 気づけば自分の後ろにも男性がいた。
金髪でピアスが光っていた。
…どうしよう、怖い、怖い!





「こっちの子は大人しいねー」






 怖くて何も言えない。
口があかない。
足が震える。
心臓が動き回ってる。
あたしの肩にのっている手をはらわなきゃ…。



チラッと後ろを見るとニヤニヤしてる男性がいた。
ドキッとした。
怖かった。
動いちゃいけない気がして。
逃げたい、逃げたい。





「あーあ、泣いちゃったよこの子」





 まただ。
また泣いてしまった。
真広の前でも泣いて、こんな人達の前でも泣いた。



 ボヤける視界で彩斗ちゃんを見た。
見られた、弱い自分を見られてしまった。





「行こう空実さん」





 彩斗ちゃんに手をひかれやっと動き出す足。
涙が止まらない。





 足早に海の家を離れた。
立ち止まる彩斗ちゃんに合わせてあたしも止まる。






「君は…」






 …。





「君は臆病者だな」





 え?





「な、んで」


「動けない弱虫だ」





 なんでこんなこと言われなきゃいけないの…?
真広にも言われてさ…。





「逃げてばかりだ、あのまま震えてたらどうなっていた?!」


「…」


「また黙るのか!!」





 なんだよ…意味わかんない…。





「逃げるな、前を向いてぶつかってこいよ!!!」


「…意味わかんない」


「なにがだよ?!」


「わかんないよ!!!なんなのよみんなして!!!!!」


「こっちがわかんない!落ち込んでるくせに明るくふるまって何がしたいんだ!!!」





 怒鳴る彩斗ちゃんの声にビクビクするあたし。





「どれが本当の空実由衣なんだよ、なんで隠すんだよ!!!!!」


「…るさいなぁ…」


「そうやって生きてきたのかよ、疲れないのかよ?!」





 …ッ!!
イライラを抑えるダムが壊れた、気がした。




「疲れるよ!!疲れるに決まってんじゃん!!!!!」


「じゃあなんでそんな風に生きるんだよ?!」


「こうでもしなきゃ生きていけないんだよ!!!」


「このままずっと人の機嫌を伺いながら生きていくのか?!」


「彩斗ちゃんには関係ないじゃん!!!」


「見ててイライラすんだよ!!!!」


「こっちのセリフだよ!!あたしは彩斗ちゃんみたいに一人になりたくない!!!!」


「…ッ!」





 あ…。





「人の気持ちも考えないで自分勝手に生きて一人になるなんて絶対やだ!!!」





 待って、止まって。





「あたしは…」






 あぁ、あぁ…。





「あたしは…彩斗ちゃんみたいに、強くないから……」





 彩斗ちゃんみたいになりたいよ、でもなれないんだよ…。
妬むことしかできないよ…。





「強くない」


「…強いよ…前だけをまっすぐ見てて」


「違う、前しか見えないんだ…」


「あたしなんて、前も見えないよ…色んなとこを見てさ…自分がどこに行けばいいかなんて、とっくに見失っちゃったんだ…」


「…」


「不安なんだよ、今見ている方向はこっちでいいのかな、とか」


「…ずっと不安なのか?」


「そう、ずっと。けど、真広といる時はどこを見ればいいかわかるんだ…真広が、教えてくれたんだ」


「…なら今も」


「今は、真広と居てもわかんなくなっちゃった、真広を見てばっかで…勘違いだったのかな、最初から前なんて見てなかったのかな…」





 最初から、真広しか見ていないのかもしれない。
自分の道だと勘違いし、真広の足跡をただ追っていただけなのかもしれない。





「探してるんだよ、ずっと…あたしの進まなきゃいけない場所を…」


「…人に合わせてたら前になんて進めない」


「…わかってるよ」


「由衣」





 彩斗ちゃんに名前で呼ばれた。
思わず目を見る。





「由衣の友達ってだれだ?」





 …友達?
そんなのいっぱいいる…。





「本当の自分とちゃんと向き合ってくれる人はだれだ」





 本当の自分と…?





「弱いからこそ傍にいてほしいのは誰だ?」





 …。





「もう、わかっているんだろう?」





 傍にいたい人。
本当の友達。





「彩斗ちゃん…あたしの本当の友達はいないよ…」





 考えてみたら、初めてだったかもしれない。
真広以外の人とちゃんと向き合ったのは。
いや、いまじゃ真広にも言えない…。





「だからね彩斗ちゃん…」


「…ん」


「あたしの、本当の友達になってくれる…?嬉しかったんだ、本当の自分を見つけてくれて…」


「…あぁ僕も空実さんと友達になりたい」





 …見つけた。
表面上じゃない本当の気持ちを打ち明けられる友達をやっと、見つけた。





(名前で呼んでよ)
(えーと…)
(さっき呼んでくれたじゃん)
(…由衣///?)
(えへへー彩斗ーっ!!)
(うわぁっ)




 

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