痛い、苦しい





 「海だああああああ!!」





 駅から少し歩いた。
この暑い中、目的地が海でなければ帰っていたくらいだ。
ザザァっと波の音て他の泳いでる人たちの楽しそうな声が混ざってあたしをワクワクさせる。





 「うおおおおおお!!!」




 勢いよくサンダルを脱ぎ捨て砂に素足をつける愛之助くん。





 「痛ッ!貝痛ッ!!」



 貝を踏んだらしい。
ちなみにメンバーはあたし、真広、愛之助くん、彩斗ちゃん、夢希くん!
みんな真広が呼んでくれた。
行きたかった海っ!!
今年初海!!!





 「おいお前ら、水着着替えろ」


 「戸宮、長袖暑くねーの?」


 「直射日光は苦手だ」





 男女別の更衣室に行き彩斗ちゃんと二人きりになった。
うわー…細い!!!





 「彩斗ちゃんって細いよね…いいな」


 「…そう、か?」


 「うん、あたしなんてほら」





 二の腕をつまんでため息をつく。
痩せたいなぁ…。





 「彩斗ちゃんの水着可愛いねー!なんかイメージと違ったな!」


 「…僕も、イメージと違った…」


 「え、どゆこと?」





―バサッバサ





 着替え終わり、彩斗ちゃんを見ると彩斗ちゃんがこっちをガン見していた。
んー…、胸、みてる?お腹見てる…?





 「えーっと…彩斗、ちゃん?」


 「…」(ジー)





 更衣室を出て待ち合わせの場所に移動する。
あ、これは胸見てるな…。





 「…彩斗ちゃんのえっち」


 「へッ!!???な、なにを言って///」


 「だって胸見てたじゃーん」


 「ち、ちがっ///」


 「んー、問答無用!!えっちな彩斗ちゃんの胸いただきーっ」





―ガバッ





 「や、やめないか///」





 彩斗ちゃんを背後から抱きしめ胸を触る。
か、可愛いサイズだ!!





 「も、もうやめてくれ///」


 「彩斗ちゃんかーわいーっっおりゃー」


 「ふわぁあ///」





 なんてことをしていたら、目線に気づいた。
先に来ていた真広と愛之助くんと夢希くんだった。





 「あ」


 「〜〜〜〜〜ッッ///」





 彩斗ちゃんも気づいたのか真っ赤な顔であたしの後ろに隠れた。





 「由衣…愛乃助と夢希にゃ効果がありすぎたようだぞ」


 「…の、ようですな」





 愛乃助くんも夢希くんも彩斗ちゃんに負けないくらい真っ赤な顔になっていた。
夢希くんなんてその場でしゃがみこんで顔を抑えていた。





 「…しにたい」


 「戸宮に謝っとけ…」


 「はい、彩斗ちゃんごめんなさい!でもほら!揉めば大きくなるし!」


 「…空実さんも、揉まれたのか?」


 「えぇ///!?」


 「…理不尽だ…」





 どうしよう、あたしのせいで3人の犠牲者を出してしまったようだ…。




 「だ、大丈夫彩斗ちゃん!!!俺が大きくしてあげr」





 愛乃助くんが親指を立てて笑顔で言いかけると彩斗ちゃんがその親指をありえない方向に曲げた。
うわぁ…痛そう…。





 「あ、彩斗ちゃ…なんか、俺の親指…こっち向いてるんだけど…」


 「気のせいじゃないか?」


 「気のせいじゃ追いつかない状況なんだけど…」


 「親指もお前の顔が見たかったんだよ」


 「う、うぅ…由衣ちゃーーーーーんっっ」


 「うおぉ?!」





 ふわふわと髪を揺らしながらなみだ目で飛びついてきた。
そのふわふわを撫でてあげる。





 「愛乃助、戸宮が嫉妬するぞ」


 「ハァ!!!????」


 「そうだった!大丈夫彩斗ちゃん、俺は彩斗ちゃん一筋だから!!」


 「ちょっと待て、何を勘違いをしてっおい来るな!!!やめろってば!!!!!」





 そう言って愛乃助くんも彩斗ちゃんも海辺に走って行ってしまった。
残されたあたしは振り返り真広と夢希くんの確認をする。


 の前に予想をしてよう。
あたしが振り返ると二人は逆ナンされていて、二人とも満更でもなさそうにしているであろう。
ハイ予想終了。


 振り返る。
まぁ、予想は的中。
別にあたしがエスパーってわけじゃない。
聞こえたのだ。
女特有のはしゃぐ声が。





 …。





 なんか…やだ。
自分のことなんて忘れちゃってる気がする。
胸の奥のほうがズキズキする。
はしゃぐ女の人たちは同級生っぽくて。
それでいて可愛くて。
髪の毛、サラサラ…。





 自分の髪を触ってみる。
くるくる。





 「…ハァ」




 ちっちゃく、ため息をついてその場から離れる。
出来るだけ、離れる。
周りは友達、恋人、家族などで賑わっていて一人ぼっちな自分が惨めに思えた。
サンダルと足の間に入った砂が気持ち悪すぎて。
立ち止まって砂をとった。




 その場に座って手を砂につける。




 「痛っ」




 どうやらガラスの破片が埋まっていたらしい。
手を切ってしまった。
なんでもっと埋まってなかったんだよガラス。
てかこんなところに捨てるな人間。
そしてこれっぽっちで血を出すなあたし。
じーっと血を見つめる。
じわじわ出てくるなー…。




 「ハァ…ハァ…何してんのお前……ッハァ」


 「え?…真広か…」


 「何その不満そうな返事」


 「んー」


 「急にどっか行くなよアホ」




 …なんだよ。
あたしのことなんて気づいてなかったくせに。




 「聞いてんのかアホ」





 なんだよ、なんだよ!!!!




 「アホアホ言わないでよ!!!!!」


 「?」


 「なにさデレデレしちゃって!!向こうで遊んでればよかったじゃん!!!!」


 「おい、何怒って…って血でてんじゃねーか!!」





 あたしの腕をつかんで手を見る真広。
胸、痛い…苦しい…。
このままじゃ…泣いちゃう…!!!




―バッ





 「…ッ」



 振りほどいてしまった。
今までの暑さが一瞬でなくなって、冷や汗がでてきた。





 「あ…違……」


 「…」


 「違う…これは…違うから…」


 「…ごめん」





 真広が頭を下げる。
違う、こんなことしてほしかったんじゃない。





 「違う、そうじゃ…」


 「ごめん、言い過ぎた、一人にして悪かった」


 「…だから…そんなんじゃ…ない、から…」




 震える。
こんなこと今までなかった。
ぎゅっと左腕をつかんで震えを止めようとする。
努力もむなしく、震えは止まることはなかった。




 「…ごめん」


 「あ、やまんないで…」


 「ッだって…」


 「真広は悪く、ないし…」


 「じゃあ…」





 真広が顔をあげた。
すごくつらそうな顔をしている。
なんで?真広のせいじゃない。
どう考えても、自分のただの嫉妬のせいだ。




 「じゃあ…なんで、泣いてんだよ…」



 嘘…?
なんで泣いてんの?
ほっぺを触ってみる。
確かに涙が道を作って、砂を濡らしていた。





 「…ごめんな」


 「やめて」


 「…」


 「あたしが悪い、から…ただの我侭、だから…」


 「…」


 「だから…ッ…だから…」


 「…」


 「…ごめッ…もう、一つ…我侭、言わせて…」


 「…うん」





 嗚咽が漏れて、もう呼吸もうまくできなくて。
鼻水も涙も止まんなくて。
すすって拭いて。




 「……いで」


 「え?」


 「嫌いに、ならないで…」


 「…」


 「嫌いに、ならないでぇッッ…」





 嫌われたくない。
この距離を縮めたくない。
怖がりで我侭なあたしが今真広に願うとこはこれだ。





 …ハハ、違うな。
うん、違う。





 本当は『好きでいて』、だ…。



 

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