「あー楽しかったねーっ」





 見慣れた地元の駅に着き、みんなと別れ柊くんと二人きりになった。





「別に一人で帰れるよ…」


「だめだめ、危ないよ!!」





 チラッと横を見ると目があった。





「真広と由衣ちゃん大丈夫かな」


「あぁ、由衣はかなり悩んでいたな」


「…由衣?あれ、名前で呼び合う関係になったのー?」


「まぁ、な…///」





 そう、僕と由衣は友達になったのだ。
(詳しくは窓の鍵は開けといて!の"友達、見つけた"をごらんください)
しかし、由衣と藍川くんの間で何やら問題があり、気まずい状況になっていた。





「あの二人は見ててじれったくなっちゃうよー」


「どうして?」


「だって両思いなのに付き合ってないんだよー?」


「二人には二人の考え方があるんだろう、首をはさまない方がいいと思う」





 まぁ、よくわからないんだけど。





「心配だな…」


「君は優しいな」


「…彩斗ちゃんのが優しいよ」





 ふわっと笑う柊くんの言葉に思わず赤面してしまった。





「そんなことない///」


「少なくとも俺は彩斗ちゃんの優しさにいつも甘えてるよ」





 なんでこんなにも恥ずかしいことを直球にいえるのだろう。
あ、そうだ。





「こんなこと聞くのはおかしいけど柊くんはどうして僕のこと好きになったんだ?」





 最近、妙に柊くんを意識してしまう。
だから、これだけは聞かせてほしかった。
それを聞けば自分の答えを見つけられそうだから。





「え、んー一年の時にさ」


「うん?」


「夢ちゃんが野球部やめて俺かなり落ち込んでたんだー」





―回想―




 バッテリーだった夢ちゃんが野球をやめた。
今さっきそれを聞いた俺は部活を放り出して屋上にきていた。





「(なんで…)」





 なにも相談してくれなかった。
なんか、いえない理由でもあったのかな…。
そんなことを考えながらふとグランドを見ると知らない女の子が歩いていた。





 その子はサラサラと揺れる髪をなびかせながら一点を見つめただ歩いていた。
その姿に見とれていると女の子は立ち止まり俺のほうを見た。





「(うわぁ、見えてんの!!?)」





 その子の目をただ見つめていると向こうが先に目を離した。
視力いくつだよ…。





 次の日も俺は屋上にいた。
この日は練習がなかったのでサボりではない。
下を見て昨日の子を探した。





「(いた)」





 昨日と同じように一点を見つめ黙々と歩いている。
今日はこっち見ないのかな。





 それから俺は練習行く前に屋上に行きあの子が通るのを待った。
なんだかあの子を見ると新しいバッテリーでも頑張れる気がした。





「今日は遅いな…」





 一昨日も昨日も来なかった。
今日はオフだったからもう少し待とう。

 その日からあの子を見なくなった。
俺は気になって学年もクラスも名前も知らない女の子を手当たり次第探した。
でも全然見つからなかった。





 新学期。
俺は二年生になった。





「幽霊でも見てたんじゃねーの?」





 未だにあの子を探す俺に仲直りした夢希と真広はそんな冗談を言ってケラケラ笑っている。
なんでこんなに探しているんだろう。





 多分、あの日見た風になびくサラサラの髪とこちらをまっすぐ見る目を見たかったんだ。





 真広や夢希とはクラスが離れ一人でB組までむかった。





そして、見つけた。






 窓側で外をじっと見ている女の子を。
俺は他の友達に見向きもしないでそこまで歩く。
焦る気持ちを圧し殺して一呼吸。





「お、俺、柊愛之助!」





 目を見開き驚いているその子の目はずっと近くで見たかった目だった。
俺を一直線に見つめる目はますます俺を緊張させた。





「…戸宮…彩斗、です」





 小さな声だったけどちゃんと聞こえた。
そう言ったあとふいっと窓に顔を向け、黙った。
これだけでよかった。
はずだった。





 あの目を見ているとどんどん彩斗ちゃんがほしくなった。
目も髪も声も気持ちも全部全部ほしくなった。





 早く、俺のものになんないかな。





―――





「ってね!」





 う、わぁ…///
いつもと同じ笑顔を見せる柊くんを直視できなかった。





「彩斗ちゃん」


「な、んだ」





―ギュッ





 頭に手をまわされそのまま抱き寄せられた。





「好きだよ」





 あぁ、またこんなこと言う。





(ずるい…)
(えへへ)
(離せ)
(やーだっ)






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