お前ら、遊ぶぞ | ナノ





ロシアンルーレット








 最近放課後になるとお迎えがくる。
今日も後ろのドアに人影。
スナック菓子の独特の匂いがする。





姫香
「(悠先輩か…)」





 HRが終わりみんなが帰っていく。
あたしもリュックを背負いみんなの群れに紛れて前のドアから出る。
追いかけてくる様子なし。





姫香
「(んー…)」





 なんか、可哀想かな…。
チラリと見るとドアに寄りかかりながら窓の向こうをぼーっと眺めている悠先輩がいた。
右手にはお菓子がたくさんあった。




 なんだろう、自分の良心が…。
一人サクサクと食べている。
寂しそうに見える(いやたぶんなんも考えてないだろうけど)
仕方ない…。





姫香
「悠先輩」



「…!」





 こちらに気づいたようだ。
口にくわえていたスナック菓子を一気に食べた。






「…帰っちゃったかと思った」


姫香
「いや、帰りたいです」



「それはおれが怒られちゃう」





 そんな真顔で言われても…。
またお菓子を差し出されもらう。
あ、うまい。





姫香
「今日なにやるんですかねー」



「…」


姫香
「どうせたいしたことやらないんでしょうね」



「…」





 静かだなー。
部室に着きドアを開ける。





―ガチャ





涼介
「すっげー!!さすが晴太!!!」


晴太
「ぎゃははははははッ郁乃マジで筋肉ねーな!!」


郁乃
「うるさいなーもう触んないでよー」



「郁乃、もうちょっと筋トレしたほうがいいんじゃない?」





 な、なんじゃこりゃ…。
パンツ一丁の男4人がゲラゲラ笑っている。





姫香
「…何してるんですか」


涼介
「おっ姫香!!誰が一番いい身体してるかチェックしてたんだ!」





 意味が分からないわ。
黙って自分の机に荷物を置き座る。





晴太
「悠も井上も早く脱げよーっ」



「…」(頷く)


姫香
「脱ぎません」




 晴太先輩の筋肉すごいな…。





郁乃
「姫香はたるんだお腹とか見せられないでしょ」


姫香
「郁乃先輩可愛い身体してひどい事いいますね」


郁乃
「身体は関係ないでしょ」


姫香
「腹筋割れてないじゃないですか!」


郁乃
「俺に筋肉はいらないのー」





 ズボンははいている郁乃先輩を横目に机の上に置いてあったお菓子を開ける。
あ、おまんじゅうだ。






「あ、それお土産」


姫香
「へぇ、温泉行ってきたんですか?」



「うん、結構よかったよ」





 翔先輩は旅行好き。
ついでに金持ち。
既に制服を着終えている翔先輩はお茶を出してくれた。





姫香
「あ、おいしい」


晴太
「俺もいっただきまーす!」


姫香
「晴太先輩も涼介先輩も服着てくださいよ」


晴太
「ズボンはいたもん」


姫香
「風邪引きますよ…」





 まぁ晴太先輩は風邪なんて引かないでしょうけどね。
あぁもう悠先輩まで脱いでるし…。





涼介
「悠も以外とあるな、なんかしてんの?」



「別に」





 何をしてんだこの人たちは…。





姫香
「今日は何するんですかー」


涼介
「あ、そうそう今日はなー…」





 ゴソゴソと鞄を漁る涼介先輩。
上半身裸で…。





涼介
「じゃーんッ!!ロシアンルーレット!!!!」





 涼介先輩の手には6つのおにぎりがあり形がいびつ。
悠先輩はその横で手をヒラヒラさせていた。





涼介
「今日調理自習で米余ってたから悠と作ったんだよなーっ!!」



「…」(頷く)





 授業中に何してんだ…。
二人ともすごい達成感。





晴太
「中何入ってんのー?」


涼介
「無難にわさびにしといた」





 無難だな。
まぁわさびの量がすごそうだ。





晴太
「おーっじゃ当たりは何が入ってんの?」



「…チョコ」


涼介
「食べるラー油!」





 チョコ!!!????





姫香
「ちょっと悠先輩何入れてんですか!!!」



「姫香、チョコ嫌い?」


姫香
「いや、好きですけど…」





 ご飯にはさすがにあわないんじゃ…。





涼介
「まぁまぁ、とにかくやろーぜ!!」


郁乃
「でもこれって涼介と悠はわかっちゃうんじゃないの?」


涼介
「それがさー俺の鞄に入れといたら形全部くずれちゃって俺も悠もわかんねーんだよ!」



「…」(頷く)





 涼介先輩の鞄を見ると授業には関係のない物ばかり入っている。
これは崩れるだろうな…。





涼介
「はい、じゃあ選べーっ!!」





 おにぎりをそれぞれ選ぶ。
さすがに男の子が作ったおにぎりはでかい…。
しかもお米がギュッとつまっていてすごい量だ。





姫香
「なんか怖いな…」



「はは、この二人が作ったからどれも安全じゃないだろうなー」





 翔先輩に頭をポンポンされながらラップをはずす。
皆さん準備ができたようだ。





涼介
「じゃあいくぞー、せーのっ」




「「「「「「いただきます」」」」」」





 口に含む。
しばらくみんな無言で食べる。





涼介
「なんかサクサクしてる…ポテチ?」



「塩」



「お、チョコだ」


郁乃
「なんでシュウマイ入ってんの…」


晴太
「…」


姫香
「…」





 かっら…!!!
なんだこれ、わさびじゃない…。
これはあれか、食べるラー油ってやつ?!
ありえない辛さだ。
量がおかしいんだろうな、うん。
とりあえず舌がおかしい。
涙たまってきた。





晴太
「ッぶふぅッッ」


姫香
「!?」





 吐いたああああああああああ!!!
晴太先輩の口から緑色のおにぎり出てきた…。
わさびこんなに入ってたのか…!!!





姫香
「…ッ」





 ついに涙こぼれてきた。
辛い、辛すぎる…。
私も晴太先輩並に盛大に吐けたらどんなに楽だったか…!!
だめよ私、女の子でしょ!!!






「井上ちゃん大丈夫?」





 背中をさすってくれる翔先輩。
やめて、だめだから、その行為はリバースしやすくなるから!!!





姫香
「ッ…ッ!!」


郁乃
「吐けば?」


姫香
「!!!」





 郁乃先輩め…他人事だからって…。
口を押さえつつ、口の中に入ったものを喉に無理やり通す。





涼介
「食べるラー油だろ?そんなに辛かったか?」



「…量、多い」


涼介
「あぁ俺辛党だから!!」





 辛党ってこんな量食べるのか!!?
すべてを飲み込み思いっきり呼吸。





姫香
「ッッありえないです!!!!!」


涼介
「いや悪かったって、うまかったろ?」



姫香
「うまいわけないじゃないですか!!!!」





 こちとら舌が痺れてすごいことになってんじゃ!!!
翔先輩にティッシュをもらい涙を拭う。





涼介
「でも全部食べたじゃん?」


姫香
「女子力の問題です!!!!」


涼介
「悪かったって、あ、なんか飲み物買ってきてやるよ!」


姫香
「早く買ってきてください!!!」


涼介
「へーい」





 うぅ、舌がじんじんしてる…。






「はずれは晴太と井上ちゃんかー」


郁乃
「晴太は?」



「さっき口ゆすぎに行った」


郁乃
「この汚い残骸どうするのさ…」





 床にちらばった緑色のお米たちを蔑んだ目で見つめる郁乃先輩。
翔先輩と悠先輩はその残骸を処理してくれた。






「落ち着いた?」


姫香
「まだ舌の感覚がおかしいです…」



「もうすぐ飲み物くるよ」





 また頭をポンポンされる。
窓から入ってくる風が気持ちいい。





―ガチャッ





涼介
「買って来たぞーッッ!!!」





 机に並べられたたくさんの飲み物。
すごい種類だ…。





姫香
「お汁粉?」


涼介
「悠好きだったろ?」



「…」(頷く)





 渋い、甘い…。
とりあえずお茶をいただく。






姫香
「ッはぁ…」

涼介
「もう大丈夫か?」


姫香
「はい」


涼介
「…怒ってる?」


姫香
「怒ってないですよ」





 意外と心配していたらしい。





姫香
「まぁ、適量なら食べるラー油おにぎりもいいと思います」


涼介
「…おう!」





 なんだかんだ楽しんでいる私がいた。





―ガチャ





 そこで晴太先輩が戻ってきた。
落ち込んだ様子で。






「どうかした?」


晴太
「先生に服着ろって怒られたー…」





 Oh…。





(じゃあまたやろうな!)
(今度はおいしいのお願いします)
(任せろ!!)
(心配だなぁ…)


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