これは"ゲーム"



 柊飛鳥の眼前には、果てもなく広がる海が白波をちらつかせていた。
 空には千切れ雲がふわふわと浮かび、太陽の光が砂浜に座る少女に暖かく降り注いでいる。

「午前11時じゅうさんぷん……」

 腕時計に視線をやりながら、飛鳥は囁くように呟いた。そしてゆっくりと瞬きをしながら踵を返し、海とは逆方向の森の中へと足を進めた。



 飛鳥が歩きだして間もなく、近くの茂みから鋭い銃声が響いた。同時に鳥の羽音が幾重にも重なって彼女を通り過ぎていく。
 飛鳥はためらいもなくその茂みに足を踏み入れた。何かに吸い寄せられるように、一歩一歩、少しずつスピードを速めていく。

「右陰くん?」


 木にもたれかかって座っている人影に声をかけると、それは驚いたように勢いよく立ちあがった。


「あ、飛鳥!?…えと、……さっきぶり」

「うん。なに驚いてるのさ」

「いやぁそのね、でかい音出したら誰か来てくれるかなと思いまして、そしたら以外にも早く来たからびびった…ということなのだよ」

「よかったね。敵じゃなくて」

「敵って…やっぱり奪い合うってことは俺ら以外にもいるんだよな。誰かが…」


 右陰は再び木の根元に腰を下ろした。そして手元のスナイパーライフルPSG-1を軽く撫でた。
 それを見た飛鳥は眉をひそませ、自身の腰に括りつけてあるものを凝視した。


「おかしいよなぁ…」

「何が?」

「こんな物騒なもん、今まで触った事もないのに。なんでか使い慣れたモノみたいに、腰(ここ)に馴染んでる」


 飛鳥は刀の柄を掴んで一気に抜いた。金属の擦れる音が森にこだまする。
 その日本刀の刀身には小さく「村正」と彫ってあった。


「そうだね。俺もさっき初めて撃ったんだけど、弾を入れるのも引き金を引くのも、……なんというか、すんなり?」

「変なのー」

 片手で持ち続けても重さを全く感じない。それはスナイパーという重装備をしている右陰にとっても同じことであった。

 飛鳥が刀を鞘に戻すと、右陰が思い出したように顔を上げた。


「ああ、それとね。俺ここに連れてこられてから近辺をうろうろしてたんだけど」

「私は海を眺めてるだけだった」

「この森以外にも空き地や廃ビルが沢山あった。廃病院もあったし、中に薬品が充実してた」

「まるで探索ゲームのような……」

「うん。まぁあの声も言ってたしね。これは”ゲーム”なんだろう」

「武器持って奪い合う……殺しあう、かぁ」


 一瞬、飛鳥の口角が少し上がったのを、右陰は見逃さなかった。しかしすぐに視線を逸らし、何も見ていない素振りをして言った。


「…極力それは避けたいな。じゃあ行こうか」

「どーこにっ?」

「リングを探しに行くんだよ。当たり前だけど、自分たちの方の」

「そうだね。…あのさー右陰くん」

「何」


「よくそんな短いスカート履こうと思ったね」


「うるさいな!!俺が選んだんじゃないよ!」




by astrisk

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