殺してやろうか






 彼女はニヤリと笑い、白銀に光るデザートイーグルのトリガーに指をかけた。


「そんなに死にたいのなら、殺してやろうか」


 銃口は真っすぐ自分に向いている。しかも頭。手袋に包まれたその指に少し力を加えれば、放たれた銃弾が私の額を突き抜けて、頭蓋骨を砕き脳に穴をあけるだろう。私は即死して、後悔という名の銃弾をその頭に抱えながらこの世を彷徨うことになる。
 そして、悪魔のような笑顔で銃を突きつけている少女には、人殺しという名の治ることのない傷が刻まれるのだ。

 違う。私は死にたいんじゃない。なぜなら、私が死んだらみんなが悲しむということを、知っているから。私はみんなの望むことをしてあげたい。みんなが笑っていられればそれでいい。みんなが苦しんでいる姿を見たくない。


「………駄目だよ。女の子がそんな顔しちゃ」


 口と身体が、勝手に動いていた。腕を伸ばし、掌で銃口を強く掴む。冷たい金属の感触が指先から伝わり、その感触に鳥肌が立った。


「決めたよ。のあ、みんなを守りたい」


 めいっぱい笑って見せた。目の前の少女は一瞬だけ驚いたように目を見開き、そして「ぷっ」と馬鹿にしたように笑った。そしてあろうことか前触れも無しに銃の引き金を引いたのだ。カチャリ、と音がして掌に衝撃が走る。
 私は笑顔のままだった。なんとなく気付いていたのだ。その銃には弾が入っていないということに。この子は最初から私を撃つことなんて考えていなかったのだ。


「それでいいんだよ」


 その言葉を、待っていた。私の決意への、同意。
 少女は銃と弾を私の足元に放ると、くるりと私に背を向け、闇の中に消えた。


「デザイーちゃんは返すわ。それ、私うまく使えないんだよね」


 闇の中から聞こえてきた声は、どこか寂しそうで、どこか嬉しそうだった。





 ーーーーーーー
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 今思えばとんだ大失態だ。躊躇うなんて。逃げる途中何度も言いわけをしたけど、あの人は

「敵に隙もパンツも見せるなんて……やるね」

 とか言って爆笑してた。イラッとした。
 正直言うと良に武器を奪われた時、死ぬ覚悟をせざるをえなかった。「あ、俺殺されるな」ってポンと結論が頭に浮かんで、それからはもう汗だらだら。良くんがそんな簡単に人を殺すとは思わないけど、あの時の俺は成す術も無くて、只なめられないように気を張っていた。今思えば相手の反感を買う危険行為だったけど、まあ昆布っぽい人が助けに来てくれたし結果オーライということで。途中まで一緒に逃げてたのに、乃愛に会いに行くとか言ってどっか行っちゃったんだよね。

 飛鳥ともはぐれちゃったし。………そうだ。飛鳥は?あいつ怪我してるよね?病院には居なかったし森か?でもそっちには敵が……………。


「っべー!マジっべーわ!!」


 こんな時にギャグを言える自分に、なんだか腹が立った。





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 バシャバシャと水の跳ねる音を聞きながら、私と風太はじっとしていた。「体力は常に満タンにしとけ」とリーダーもとい指輪所持者に含み笑い付きで念押されたからである。
 故にこうして動かない。


「寒いね」

「暑いね」

「いや寒いよ。風太は装備が多いからでしょ」

「うん」

「今週のジャンピ買った?」

「まだ」

「やばいよアレ。モリゾーが…」

「ちょ、言うんじゃねえ」


 ガサッ


「「うおおお!」」


 不意に背後から音がして、私達はばたばたと立ちあがった。振り向くと、バールを片手に持った、友の姿がそこにあった。このゲームに参加していることはさっき右陰に聞いたけど、こんなにも早く出会うとは思っていなかった。


「よぉお二人さん」


 片手をあげて軽い挨拶をする葵爽に、私は背中に寒気が走るのがわかった。


「葵爽…!?」
「朱璃、くるぞ」


 ぼそっと風太が呟く。何が!?何が来るの!!?
 よくわからないまま背中の剣を抜きとり、向かってくる何かに構えた。

 私の武器のこの重い剣は、一体どんな金属でできているのだろうか。そして、突っ込んできた恋さんが持っている日本刀(なのかな?)は一体どんな作り方をしたのだろうか。
 とにかく、音が良かった。金属の擦れる、高く響く音。恋さんと剣を交える度に、この音は大きく鋭く鳴る。
 その音の流れを割いたのは、銃弾の低く頭に響く音。恋さんの足元の土が舞い、恋さんは舌打ちをすると走りだしてしまった。その後を風太が追いかけていく。

 残ったのは、私と葵爽。私は少し眉間にしわを寄せた。バールと剣じゃ、こちらが有利に決まってる。これ楽勝ですな………とかではなくて、そのバールの若干曲がったその形が、不快でたまらなかった。それを使って、飛鳥ちゃんの脚をぶっ壊したんでしょう?ねぇなんか言ったらどうなの?
 私は完全にメンチをきっていた。余裕があった訳ではない。敵とか友達とか関係なくて、とりあえず不快だったのだ。
 構える剣に力を入れると、葵爽も姿勢を低くした。大丈夫。勝てるよ。殺さなくてもいいんだし。ちょっと動けなくする程度でいいんだ。この青く神々しく光る剣は私の一部。肩を動かすように、意識を集中させれば、思った通りに動いてくれる、私の腕。


「いくよ!!」


 思いっきり走りだした。相手も同時に飛びかかってくる。それぞれの得物を振り上げて、それが重なった時、


「なにこれ」


 案の定、耳障りな不快音が辺りに鳴り響いた。





 


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