だから、私は戻らない。






「どう?なんとかなりそうかな?」




 心配そうに飛鳥を覗き見る乃愛を見て、右陰は息を吐きながら小さく笑った。


「うん。添え木と包帯で固定しただけだけど…。でも早く病院で診てもらった方がよさそう」

「ごめんね。私があんなことしちゃったばっかりに、話し合いで済むかもしれなかったことがこんなことになっちゃって……」


 飛鳥は眉を下げて乃愛を見ながら、毛布を自分の鼻のあたりまで上げた。乃愛は「大丈夫だよ」と言いながら横髪を耳にかけて、微笑む。



 右陰と飛鳥が風太たちのいる洞穴に辿り着いた後、右陰、飛鳥、乃愛の三人は廃病院へ向かった。
 道中飛鳥が意識を取り戻し、激しい痛みを訴えたが、病院に着く頃には落ち着き、おとなしく処置を受けている。


 その間風太と朱璃は飛鳥の刀を調べ、あることに気がついた。刀身に彫ってある「千子村正」の字。これはこの刀が徳川家に代々忌避されてきた伝説の妖刀、村正であることを意味しているのだ。それを抜いた者になんの効果があるのかは知られていないが、不吉ということは変わらない。
 このことを朱璃は右陰に電話で伝え、今後どうするべきか飛鳥に尋ねるようにと頼んだ。

 右陰は朱璃からの電話をうけ、体中に安堵が広がるのを感じていた。


「飛鳥が謝る必要はないよ。だってアレはあの刀が悪いんだろ?」

「そうだよ。飛鳥ちゃんに意思はなかったんだし……」


「違うよ」


 乃愛の言葉を遮るように放たれた言葉に、右陰と乃愛は「えっ」と同時に声をあげる。


「あれは確かにあたしの意思だったよ。葵爽を斬ろうとしたのも、恋に言った言葉も、全部」


 なにくわぬ顔で飛鳥は言った。
 右陰の表情に、少しずつ戸惑いの色が滲み始める。


「でも、あの時はちょっと気がおかしくなってただけだろ……」

「そうだね、おかしいのかもね、あたし」


 少女は無邪気に笑った。
 乃愛と右陰の胸の奥に、鋭利な何かが突き刺さる。



「いや……飛鳥はおかしくなんてないよ。間違ってなんかない。正しいよ。”こうするしかない”じゃなくて”こうするべき”だったんだよ。どんなに足掻いたっていずれは殺しあうように仕向けるんだ。ヤツらは」

「…………」


 雨雲のように心の中を蔓延っていた迷い。それが晴れた。
 これで安心して借りを返せる。


「………………」


 対照的に、乃愛は不安を蓄積する一方だった。
 目の前に居る二人も、風太も朱璃も、あの電話の相手も、このゲームに真正面から向き合おうとしている。きっと恋や葵爽たちも同じ。様々な感情を押し殺して、戦いに挑むのだろう。
 だが自分はどうなのか。鞄の中にしまってあるデザートイーグルを誰かに向かって撃てと言われたら、例えそれが凶悪な連続殺人犯だとしても無理だろう。否、このような戦いの中に自分が参加しているということでさえ、とても耐えがたいのである。大切な友人同士が戦う。それだけでどんな悪夢より恐ろしいと感じる。

 こんなゲームすべて打ち壊してしまいたい。だが、そんな力は持っていない。

 やるせない悲しみが彼女を侵食し始める。


「ごめん、ちょっと電話かけるね」


 そう言って乃愛は病室を出た。窓ガラスの破片が散らばった廊下を進み、角にある革張りのソファに小さく腰かける。そして、電話をかけた。

 数回のコール音の後に相手が出る。同時に波の音が耳に入ってきた。相手は今海にいるのだろうか。そんなことを考えながら、乃愛は震える声で言った。


「のあは、誰も傷つけたくない。ごめんね」


 すると数秒の沈黙の後に、波の音がぴたりと止んだ。


『なら何もしなくていい。そのかわり拳銃を私に貸してくれねーか?場所言うからおいといてくれよ』


 病院の窓から見える廃ビル。相手は拳銃の交換場所にそこを指定した。
 そのビルを遠目に見た瞬間、嫌な予感が乃愛の頭の中を駆け巡った。



「雨が降りそうだね。早く戻らなくちゃ」


 ひとり言を呟いてそれを誤魔化す。これ以上不安を溜めるわけにはいかなかった。


 少女は小走りで飛鳥たちのいる病室に戻り、遅れたことを謝った。
 そして、これから自分は別行動をとりたいということを、その意も含め告白した。



 私はみんなに協力したくないわけじゃない。

 自分にできることなら何でもする。

 でも相手を傷つけるようなことはしたくない。

 こんな状態でみんなと一緒にいたら、足手まといになるだけ。

 だから、私は戻らない。



 右陰と飛鳥は少し驚いていたが、何かあったらすぐに電話するように乃愛に約束させ、乃愛を残し病室を出た。



「……いってらっしゃい二人とも。気をつけてね」

















以下茶番





〜右陰飛鳥がくるまでの出来事〜


「ふむ、これが風太の武器なんだね!」チャキーン

「おい朱璃むやみに触るな。危ないよ」

「風太、ちょっとそこ動かないでね」

「は?」

「狙いはふーくんの横の木だよ!頑張って朱璃ちゃん」

「おいまt」

「いっけええええ」ドン

「うわああああああああ」

「すごいよ朱璃ちゃん!w命中だよ!」

「わーいわーい」

「死ぬかと」

「次は風太の腰についてるバッグを……」

「あ、死ぬわこれ」

「ふーくん頭に虫ついてるよ」

「おもち……天国で待ってるからな…」(良い笑顔)

「コードナンバーFni-in砲撃準備。発射!」ドン


右陰「………oh」






 
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