本気でこのゲームに勝とう







「きーちゃーん」


「んー…」





 恋の声も聞こえないくらいもやもやしている。
俺は飛鳥に怪我させた。
きっと右陰がいなかったらもっとひどいことになっていたかもしれない。
でも恋がいなかったら俺は飛鳥に切られていたのかもしれない。





「柊はなんで攻撃してきたんだろうね」


「そんなの…わかんねェよ」


「ですよねー」





 いつもの飛鳥なら、後ろから飛びついてくる。
すっげー笑顔で。
でもさっきは違った。
あの笑顔は微塵も感じられなくて。
ただ俺を殺そうとする目だった。
俺の目も、そうなっていたのだろうか。





「でもさ、これしょうがないと思うよ」





 恋の言葉に耳を疑った。





「お前、今なんて…?」


「だってゲームだもん」





 信じられなかった。
恋はいつも通りの顔で淡々と話す。
しょうがない?






「大丈夫だよ、ここで死んじゃっても現実に戻ればいつも通りの健康状態なんだから」


「なんでわかんだよ…」


「さっきゲーム関係者の人たちが話しているの立ち聞きしたの」





 胸が熱くなる。
脈拍がどんどんあがっていくのがわかる。





「だからってお前ッッ!!!」





 やばい、さっきと同じ感じがする。
このままだとまた怪我させてしまう…!!





「だってそれがあたしらの本能じゃん?」


「ッッ!!!」





 一瞬で我を失う。
バールを恋のわき腹目掛けて思いっきり振る。
違う、止まれ、だめだって!!!





―キンッッ





 刀でそれを受け止められ一歩さがる。
落ち着け、また繰り返すことになる。
そんなの、絶対にいやだ。





―カランカラン





 手から武器を離し地面に一回バウンドしてパタリと動かなくなった武器を見つめる。
それと同時に俺も我に返り、息を整える。
恋もそれに合わせる様に刀を戻す。





「ねぇ、きーちゃん」



「……あ?」



「このゲームどうすれば終わると思う?」



「リング奪えばいいんだろう?」


「…本当にそれだけかな」


「なにがだよ」





 再びケントたちのいる廃ビルを目指し足を動かす。
恋は何事もなかったかのように振舞う。





「だって相手が右陰や柊みたいに友達だったら仲良く指輪交換して終わりじゃん」


「…そうだな」





 そのためにわざわざこの巨大なフィールドを作ってこんな規模のゲームを開催するか?
そう考えるとますますわからなくなる。





「目的は、なんだ」


「これだけの武器があるんだから、殺しあってほしいんじゃないかなって思う」





 確かに。
それが一番考えやすいかもしれない。
これを開いたやつは友達同士が心を痛めながらそれでも戦いあっているのを見るのが好きなやつなんだろう。





「で、ケント、聞いてた?」


《急に戦い始めないでくれるかな(笑)》


「さーせんお」


《パン粉ちゃんが怖がってたよー》


《もうどうなっちゃうのかと思ったぁ…》





 恋が通信機を取り出しどこかに向かってピースしている。
よく見るとカメラが置いてあった。
どうやら先ほどまでの会話は全部聞かれていたらしい。





「うわぁ…」


《葵爽、意外と制御できんのか?》




 良が不思議そうな声で聞いてきた。





「いや、かなりギリギリだったかも…」


《何がお前をそうさせんだよ?》


「多分、これ…かも」





 俺の手の上にある武器を見つめてつぶやく。
さっきもこれを手から離した瞬間落ち着いたのでかなり確信に近いと思う。





「武器から手を離せばなんとか自分を制御できる…」


《なんだ、制御できるんだ》





 安心したよもぎの声がした。
制御できると言うだけで安心できるのもわかる。
この武器、かなり危険なんだろうな。





「で、さぁ」





 恋はその場に立ち止まり深呼吸をする。





「こんなゲーム、早く終わらせたいよね」





 みんな無言で聞いているがきっとうなずいたであろう。
もちろん俺も頷いた。





「だから、たとえ敵が友達であろうとやるしかないんだよ」





 …。
よく考えた結果がこうだ。
これが一番早く終わらせる方法だと思う。





「だから、本気でこのゲームに勝とう」





 本気の目だ。
みんなも決心のついた声だった。






「よし、じゃあさっそくやってくるか」


「え、合流は?」


「あたしときーちゃんは通信で十分よ!!」


「えー…」





 無計画なのか計画的なのか…。
多分今はなんも考えてないだろう。
それから俺らは先ほどケントたちが見つけた敵のいる近くまで急ぎ足で移動した。









「…いいよ、いい感じ」


「面白くなってきたね」


「この子らを選んでよかった」


「きっとあの人も楽しんでいるよ」





by 恋

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