武器どっか落としちゃったけど
落ち着いて聞いてくれ。いや、私自身も落ち着いてる状態ではないんだけどな。
飛鳥と右陰がな……えーっと、今お前の居るとこから右にこう行ってまっすぐ行ったとこにちょっと木が少ない場所があるんだ。そこで二人が恋と葵爽と戦ってだな、
………おい何無言になってるんだよ。なんか言えよ。
…そうだな、私も見た時はショックで木から落ちると思った。まぁバレなくて良かった……って言ったらあいつらに悪いかな。
ケンカをふっかけたのは飛鳥の方からだ。まずここからおかしいだろ?
近づいたら葵爽って分かっただろうに、躊躇いなくぶった切ったんだぞ?
だから意味が分からないのも葵爽が心配なのも私だって同じだからさ、落ち着けって。な?
それに心配するなら恋と飛鳥の方だ。二人とも派手にやりあってたかんな。
折れたよ、右のすね。
………右陰が飛鳥を連れてお前等の方に向かってる。遭ったら介抱してやれ。薬はその場所から西に行ったところの廃病院に充実してるはずだ。装備品の中に方位磁石くらいあるだろ。
あと、飛鳥の持ってる刀、よく調べておいてくれ。
それとその携帯電話、私の含めお互いの電番登録よろしくな。
私?えー…っとなぁ……その、今は教えられないっていうか……。
あ、安心しろよ。この指輪っぽいのはちゃんと守っとくから…………………武器どっか落としちゃったけど。
あー最後に。
突然こんなことになって、私達も恋と葵爽……相手も混乱してるみたいだ。
私が言えることじゃないが、冷静に、自分たちが生き残り、相手を殲滅させることだけ考えておけ。これが私が5分と23秒考えて導き出した考えだ。
つまり先手必勝。仕掛けられる時に仕掛けろ。私への連絡も忘れずにな。
じゃーそろそろ切るわ。のし!
ブツッ…ツー、ツー、ツー
風太は眉間にしわを寄せたまま空を睨んでいる。そのまま、動かない。
そんな彼を見た朱璃と乃愛は何事かと彼の肩をゆさゆさと揺さぶるが、動かない。
「はあぁ?」
二人は思わず身を引いた。脱力するような声を漏らした風太はへなへなと地面にへたりこむと、首の力を抜いてうなだれた。
「朱璃、乃愛、よく聞いとけよ。実はな、」
風太はさっき電話で聞かされたことを、電話相手への不満も交えつつ二人に話しだした。
−−−−−−ー
−−−−−
−−−
「いやぁ、疲れましたなぁ」
右陰は歩きながら、小声でぽつりと呟いた。
その声は弱弱しく、まるで生気を失くしたような、か細い声だった。
「もう10分も歩いたのかなぁ……」
たまによろけながらも、しっかりと土を踏みしめて前に進んでいく。靴はこげ茶の土で酷く汚れていた。
「こういうの初めてなんだけどさ、……俺は結構、辛いかな」
彼女の脳裏にはっきりと焼きついた、アレ。
喧嘩もしたことない二人が、戦っていた、音と声。
自分の知らない柊飛鳥の笑顔。
アイツは、こんなモノを俺たちにやらせようとしているのか。
「さっきまでは戦うなんて言ってたけどさ、………辛すぎるよ……こんなの」
“でもこうするしかない。何がなんだか解らないけど、こうするしかないんだよ”
飛鳥の言葉が右陰の頭に響く。
「そうだね。仕方ないんだ。これは悪い夢で、目が覚めたらみんな仲良くしてるんだ。何事もなかったみたいに」
自分に言い聞かせるように、彼女の声はだんだんと大きくなっていく。
「俺は絶対に負けない。こうするしかないんだ。こうするしか………」
小さな水滴が、乾いた土の上に丸いしみをつくった。
by astrisk
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