授業終了のチャイムが高らかに鳴り響いた教室。学生鞄の中からGマートの袋を取り出して、中に入っていたパンを口に咥えつつある机の前の席にどんっ、と腰を下ろした。するとその机の席に座っている生徒が面倒臭そうにこちらを一瞥した。
戦闘準備完了しました隊長!隊長って誰だ!私です!今日も乗りツッコミは冴えません。

「ふどう!」
「食い終わってから喋れよ」
「もぐもぐ、んん!おい不動あっきーお!」
「何だよ?つかあっきーおって変に呼ぶんじゃねえ」

あからさまに眉根を寄せて惣菜パンを口にした。
その焼きそばパン美味しそうだ……って、初っぱなからダメじゃん私。私は戦いをこの男に仕掛けようとしているのです。
とりあえず、この余裕に溢れる態度でに机に肘をついて怠そうに足を組んでいる男こそ、私の宿敵。不動明王という何とも尊大な名前ではあるけれど、人を見下すような気性、特に私に対しての態度が酷すぎる(消しゴム千切って投げてきたり、足引っかけさせたり、その他諸々)ので、名前に肖って尊敬してやろうなんて微塵にも思えない。関係としてはいわゆるクラスメイト何だけども、私がこいつを敵対視するのにも色々と訳があるのだ。
まあそれはいいとして、とりあえず今は腹拵え。ジャムアンドマーガリンのコッペパンを急いで咀嚼した。

「何をしてるの?」
「げ、小鳥遊……」
「忍ちゃん!」
「あら、私はなまえをご飯に誘いに来たんだけど遅かったみたいだね」
「ふん、別に勝手に連れてけよ。うるさくて堪んねえっての」
「うるさいって何よ!」
「本当のこと言っただけだろうが」

その風に吹かれてさらさら靡くモヒカン引きちぎってやろうかと思っていたときに、現れたのは私と同じくサッカー特待で引き抜かれた小鳥遊忍ちゃんだった。
まるで軍隊のような制服が印象的な真・帝国学園。なんで『真』を付けたのかなんて知らないけど、この学園には所謂スポーツ特待制度の様なものがあって、私も含めて殆どの生徒がその制度によって引き抜かれたのだ。
スタイルいいし、美人だし、面倒見もいい。サッカーだって、私も含まれる数いるサッカー特待生の中でも、唯一男子に混じってレギュラーを奪い取るような実力を発揮してる。そんな素敵な女の子が、ちょっと人よりサッカーできるくらいの何においても平凡極まる私の友達でいてくれる何て末代までの誉れでしかない。……あ、今のは言いすぎたかもしれない。
とにかく私は忍ちゃんファンクラブ第一人者なのだ。異論は認めない。
それで、今回私が意を決して不動に(何度目かになるかわからない)戦いを挑んだわけは、……挑んだわけは。

「というかね!何でこの間の練習試合でアンタみたいなのと一緒に忍ちゃんがツートップ組んでるわけ?あっ、忍ちゃんは良いの!問題なんてないんだよ!ぱーふぇくつ!問題は何でよりにもよって不動なのかって事なの!」

別に私がトップ張れるだけの実力がないことは誰の目から見ても明らかだし、自惚れなんかしないけどね、どうして不動なの。不動は群を抜いて上手いのは認めるけど、けども!

「なんで二人でばっかツインブーストうってるのよ!」
「あら、なまえ嫉妬?」
「だって、忍ちゃんが不動とばっかり組むんだもの……」

練習の時も私と組んでくれてた忍ちゃんは、最近は調整とかでスタメンと一緒に練習している。

「寂しいから八つ当たりしてるだけだよ」
「お前他にも小鳥遊と練習してる奴はいるじゃねえか。例えばいやた…」
「だまらっしゃい、同じクラスの方が気兼ねなく突っかかれるじゃないの」
「……だってさ、あんたも報われないねぇ」
「うるせえな」

そういって不動に綺麗な笑みを見せた忍ちゃん。そんな笑顔見せるのはもったいないよー。心の中で親指を地に突き刺す勢いである。
だけども不動は予想と反して不機嫌顔で鼻をならしてみせた。
私が忍ちゃんの横でしゃー!と威嚇していたら、何かが目の前を掠めた。それから、くすぐったいのと柔らかいの。くすぐったいのは何でかすぐに分かった。ずっと引っ張りたくて堪らなかったかったモヒカン様だ。やわらかいのは私のほっぺにこんにちはしているようで、すぐに何もなかったかのように離れていきました。
えまーじぇんしー!えまーじぇんしー!誰か状況の説明を!
今の私の脳内を説明するならこんな感じだ。縋るような視線を投げ掛けた先には、心配するでも憤慨するでもなく、ふふと楽しげな笑みを浮かべる忍ちゃんがいた。

「まあ、可愛い親友を私から奪おうとする気概だけは認めてあげようかしらね」

私がものを考えられるようになって、それが何だったのか気付いたころにはとっくに不動はその場から立ち去っていったあとでした。頬に残った生温さをぐいと手の甲で拭って、放心状態で立ちつくした。
色々考えた結果、私のキャパシティーが限界を越えて、うあーとなっているのを、忍ちゃんにぎゅーと抱き締めて貰って、思う存分よしよしと撫でて貰った。
胸がどきまぎするのは忍ちゃんの綺麗な微笑のせいか、たった今ぽんっと弾き出されたよく分からない感情のせいなのか。それすらもよく分からないままの私は、昼休みが終わって帰ってきた不動にもう一度突っかかってやろうと思うのでした。



(恋愛レベルはLv1)(魔王に挑むには早すぎた)


………side?

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