「おいみょうじ、スカート捲れてるぜ」
「ぎゃっ!不動が変態だ!私の可愛い縞パン見たわね!」
「……誰も見えてるとはいってねえよ」
「何よ不動の癖に生意気」

ねー、忍ちゃん!不動がパンツ見たんだよー!
軽く喚き散らしながら小鳥遊のところに駆けていった。何だよ、そんな可哀想なものを見るような目でみるんじゃねえよ。目だけで軽く小鳥遊を制して、ふいと窓の外に視線をやった。海が近いせいか、風がほのかに潮の香りを運んできた。例の事があって以来みょうじは俺の事をさらに輪をかけて敵視するようになった。授業が始まった。俺は目を閉じて息を吐きだして、そのままある日のことを追想した。




同じサッカー部のみょうじは同じクラスだと言うだけで、後は極々普通の女子だ。同じスタメンの小鳥遊が甲斐甲斐しく世話を焼いているというから、どんな奴かと目に留まっただけで、騒がしくて、つり目がちの目と腰まであるポニーテールの他には特に印象はなかった。

「でね、忍ちゃん聞いてよ。授業中にちょーっと居眠りしてただけなのに、先生が放課後居残って反省文十枚も書きなさいっていうんだよ!社会ってどうしても眠くなっちゃうし、反省文はいやだし……もー誰か起こしてくれないかねー?」
「あらあら、そりゃあ災難だねぇ。でも私はなまえより前の席だし、起こそうにも起こせないわ」
「だよねぇ、はあ……」
「まあ、頑張りなさいよ」

ぐたりと俯せるみょうじを横目に、何だ、不憫なやつだなと心中呟いた。たまには人助けでもしてやるか、まあ俺は俺の方法でだけどな。

思い立ったら吉日、次の日の社会の時間にうつらうつらと舟を漕ぐみょうじに、消しゴムを投げてみた。見事に後頭部に的中した。流石俺、狙い通りみょうじはぱちりと目を覚ました。運良く教師に気付かれなかったようだ。よかったな、また反省文書かされなくて。無償で慈善活動をしたことによる満足感に浸り、口元を弛ませると、感謝されるはずのみょうじから、鋭い視線が飛んできた。口パクで何かいっているようだったので、注意して見てみた。

「な、に、す、る、の、ば、か?」

小さく口に出してみると、言葉がやっと繋がった。どうやら自分が半分夢の世界に飛んでいたことには気付かず、消しゴムを投げ付けられたという風にしか受け取られなかったらしい。
何だか腑に落ちなかった。普段だったら人知れず胸の内で憤慨していたかもしれないが、みょうじが寝起きのとろんとした涙目で睨んできたのが、どうにも間抜けに見えて、思いもよらない感情に行き着いた。


(何だ、可愛いとこもあるじゃねえか)


驚くほどに人間は単純だった。愛着からか、単に不憫だと同情したせいか、日毎に興味はみょうじに注がれていった。
消しゴム事件のこともあって、みょうじは俺の存在を認識するようになった。但し、嫌味で嫌なことばかりしてくる奴、という風にだ。それはそれで複雑だった。なぜかは分からなかったが、呆れたような厭谷に言われて初めて気が付いた。

「好きなら好きっていえば良いのに、不動は素直じゃねえな」

何だ、そんなことかと納得した。好きという言葉があまりにも自然に胸に落ちた。
ちょっとしたことで困らせてみたり(レギュラーだからという理由で、本当は俺だけで参加すれば良いような部活動の会議に小鳥遊をつれていって、みょうじに淋しそうな目をさせたり)、たまに回りくどすぎる方法で困っているみょうじを手助けしてみたり(一緒に日直になったときは雑務を大体済ませてやったり)した。小学生のようだといわれても否めない。だけど、全部をその感情の所為にしてみると、すべて許されるような気がした。

「……まあ、これも一種のアピールだよな」

自分で自分の意見を貫いて、これからもアピールと言う名の程々の悪戯をしてみようと思う。そう決意したある日の事だった。





回想を終えたところでため息が口をついた。何だろうな、これじゃあ小鳥遊に言われたとおりに報われない男だ。たまには直球で勝負しないとダメなのだろうか?
どうせ鈍感なみょうじだし、期待するような反応は返ってこないだろうけどな。そう思ってノートの端に三文字だけをシンプルに綴って、少し前の席に座るみょうじに投げつけた。
睨み付けたあと畳まれた紙を開いて、驚いたような仕草をした。そして何か紙に書き加えて投げ返してきた。何だ?からかうなとかバカとかそういう事だろうかと期待外れな答えを想像して紙面を見た。

わたしも

たった四文字の意味を理解して、大声を出して教師から廊下に立たされるまであと三秒。







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