付けっ放しのテレビから漏れてくる情報の数々が、右から左へ通り過ぎていくのを、ぼうっとする頭で理解した。今私は考えている様で頭の中には何もない。この時間がたまらなく好き。まだ未成年だから何も咎められないけど、このまま成人したらきっとニートまっしぐら。このまま時を過ごして身体だけ大人になって、まわりの人間から後ろ指を指される事になったとしても、たぶんあたしは気にしない。あたしにはこれくらいの方が性にあっていると断言できる。そんなあたしが虹彩を通して、否、何かフィルターのようなモノを通して認識できる存在がここにはあった。小さな、それでいて異形の生き物がテレビの前ではしゃいでいるのだ。


(あぁ、またいるのか)


もう、見慣れてしまったそれはどうみても人間ではない。そして普通の人間にも見ることは叶わない。所謂もののけとか妖怪とかそういう類。声も聞こえるけどそれは本当に獣のそれだから耳にやさしくない、だからテレビの雑音と共に耳から耳へと滑らせた。そこで、やっとこの部屋にあるもう一つの人の形に気が付いた。


「幽谷くん」
「どうしましたなまえさん」
「あれ、目障り、殺したい」


おお、おっかない。自分の口からまさか、そんな言葉が出るとは思ってもなかった。殺したい、だなんてあたしはそんなに積極的だっただろうか?あたしが首を傾げているのとは理由は違うのだろうけど、幽谷くんも隣で同時に首を傾げた。


「あれ、ですか?」
「みえる?」
「ぼんやりと」
「そう・・・どう思う?」


彼が指差す先にはやはり人ではないもの。「ただそこにあるな、としか」と幽谷くんは困ったように応えた。あぁ、あたしのほうが見えてしまうのか。忘れていたことに一人相槌を打った。それで、肝心の対象物は相も変わらず何が楽しいのか金切り声を上げ続ける。いらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらいらあああ、もうこれ以上は我慢ならない。


「なまえさん?」


どすっ、
困惑した声が耳に届くと共に、鈍い振動が手に握ったマグカップ越しに、伝わってきた。


「消えた」
「除霊とか、ですか?」
「いや、あたしが持ってる力じゃ半端すぎるから、壊したの」
「・・・良いんですかね」
「命は平等、だから誰に殺されても文句は言えないのよ」


本当は魂を壊すなんてご法度何だろうけど、この罪は死んだあとにでも償いますから、


「幽谷くんがいるのに、こっちばっかに集中しちゃうほうがもっと嫌だから」
「それは、嬉しいですね」


幽谷くんは未だにあれがあった場所を見ていた。いや、バンダナがあるからどこを見ているかなんて正確にはわからなかったけど、とりあえず今は二人っきりが良かった。それこそ他人の介入を許さないくらいの絶対的な何か。


「あたしはひどいと思う?」


命を軽んじている訳じゃないけれど、たったいま、目の前で消滅した命に、彼は酷く悲しんでいるのがわかった。しかし、だけど、あたしは君だけが欲しかった、他は邪魔なんだよ。


「そうは思いません、あまり見えてませんでしたから殺したなんて実感わきませんし」
「そ、見えないほうが良いこともあるもの」


例えばあたしの手に飛び散った、生き物だったものの破片とかね。とりあえず邪魔するものは何もない、あたしは優しい優しい恋人に抱擁を求めた。




リアリズムの偏食





幽谷くんよくわからん
そしてヒロインも

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