サッカー部が順調にフットボールフロンティアの予選を勝ち上がり、全国大会に出場が決まったときから今まで以上に練習が厳しくなった。休日と言ったら部活に明け暮れるかその反動で家で一日ゴロゴロしているかのどちらかだ。ところが何の気まぐれか今日は隣町まで足を伸ばしていた。買いにきているのはスポーツドリンクやタオルなど日常的な練習で使うものばかりだが、変な拘りや大きいスポーツショップの方が値段や取りそろえなどの点から見てこちらの方が良いだろうと、わざわざ電車を乗り継いでやって来たのだ。稲妻町よりもやや都会的と言っていいのか、少し大通りに出ると雑踏に巻き込まれる。こんなに狭い街によくこれだけの人間が住んでいるものだと、呆れとも素直な驚きと取れる息を付いた。人よりも身長が高いと人混みの中でも視界を塞がれることもない。染岡竜吾は順調に成長期を迎える自分の体に少しだけ感謝した。

「あっ染岡?」
「あ?…みょうじ?」
「おー!やっぱりそうか…ってうわぁあ!!」

不意に呼び止められたと振り返るとそこにはクラスメイトのみょうじが勢いよくこちらに向かって半空中回転を繰り出しているところだった。周りに余り人が居ないことも幸いして誰かが巻き込まれることはなかったのでよかった。いやみょうじはそのまま滑り込んできたのでかなり痛そうだ。何やら呻いているので仕方なく手を差し出した。

「お前な…」
「てへっとか言ってみる?」
「アホか、ほら立てるか?」
「ん…手ありがと」

周りで足を止めていた人々も暫くすると皆自分の行くべき所へと向かう。情が薄いもんだと胸の内に吐き捨てたが、見たところ当の本人には小さなかすり傷だけで大事はないようだ。

「で、結局何してるんだよ、手前は」
「散歩?」
「は?」
「だから散歩」
「散歩って、徒歩のか?」
「イエス」
「ここ稲妻町から歩いて一時間くらいかかるぞ」
「うん、知ってる」
「……」

これ以上続けても意味がなさそうなので、何も言わなかった。個人の趣味に口出しすることでもないとため息をついてから、みょうじを見た。

「染岡こそ何してんの?」
「見たらわかんだろ?」
「うん、買い物だね」
「おう、それじゃあ」
「って、待てい。折角であったのに、はいさようならとか悲しすぎるだろ!」

だからといって何かするほど仲がよかったか、と思ったことを口にすると、まるで神を罵るような口振りで、何て酷いことを!私たちは学窓を同じくする仲間じゃないか以下割愛と言った具合で嘆いてくので、正直鬱陶しいとも考えたが仕方なく雑談相手に付き合ってやることにした。まぁ、べつに急いで帰る用事があったわけではなかったから、という事も理由に含まれていたのだが。

「それでね、この間球児が仕事の邪魔ばっかしてくるわけよ」
「仕事って何のだ?」
「うぇ、染岡ひどい…私野球部のマネやってるんだよ、知らなかった?」
「全くな」
「そ、染岡…あんた熱血漢のくせして意外とくーるあんどどらいなのね…」
「せめてカタカナ発音をしろよな」
「あいきゃんと、すぴーくすぱにっしゅ」
「安心しろ、スペイン語話せる日本人も多くはねぇよ」

こんなやり取りを繰り返しつつ、駅に着いて、そのまま普通に稲妻町へ帰ってきた。因みにみょうじは財布を持ってきていなかったので、電車代は俺が払った。何だか貧乏くじを引かされている気がしたが、まぁ仕方ない、なんて思ってしまったのは、多分こいつの適当さがうつったのだ。

「ふへ、楽しいね」
「あん?」

隣同士で電車に揺られていたときに、みょうじがにやけに近い笑みを浮かべて言った。

「染岡って、もっと見た目どおりいかついかと思ってたけどさ」
「……余計なお世話だ」
「でも、案外優しいんだね」

相変わらずにへにへと笑うみょうじは、手をぱちりと合わせて言った。何となく照れ臭くなって、自分の肩位にあるふわふわした髪の毛を掻き乱した。しゅーっと電車が停止を知らせる音と、慌てるみょうじの悲鳴が何とも間抜けなコーラスを奏でた。





揺さぶれ!揺さぶれ!





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何げに初染岡さん
染岡さん…すきだ!




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