「その条件を呑むと私は何を得るのですか?」
「ふん、見返りを求めるか、この私に」
「リスクが有るならノーリターンと云うわけにはいかないでしょう」
「そうか、ならば私は───」


いつか鬼道に聞かれたことがある。何故彼の男の言いなりになるのか?灰色のゴーグルは何も写していなかったけれども、口調と眉間に刻まれた皺が答えを急き立てた。私は彼のように強さを持っていなかったし、生半可な正義感は刄になることなく、錆付いてどこかに行ってしまった。
今思えば鬼道のあれは、最後の決断を私に委ねようとしていたのかもしれない。そうだったとしてもそうでなくとも、責任というのはどこにでもつき回るものだ。だから、私は、彼がいう通りにしろというからと応えた。とり方によってはどちらにでも転ぶ。言葉は受け取る側が好きな様に解釈すればいい。大体そういうものだ。意志が無い人間だといわれても構わない。
鬼道は表情をほとんど変えずにマントを翻した。きっと鬼道はこの後彼の元に向かうのだ。そして私にはない正義を喉元に突き付けるのだろう。そこまで考えて私も踵を返した。


その後すぐに彼は警察に取り押さえられた。後から知ったことだが、鬼道は私を救うつもりでいたらしい。彼から私を引き離せば、私は呪縛から放たれるだろうと。自分と同じように。


その後、鬼道が抜けた帝国サッカー部を見に行った。彼の支配から解かれたサッカー部は楽しそうではあったが、どこか影があった。
しばらくして佐久間と源田が私の元を訪ねてきた。彼らもまた何かを決断するのだろうかと思った。あの時の鬼道と同じだった。責めるような口調ではなく、憐れみさえ含んでいた。ただ違うのは横には見慣れない顔が横にあって、私を彼が呼んでいると言った。
私はそれに分かった、と一言だけ答えて佐久間と源田と共に着いていった。


それから数週間。私は彼の横にいる。帝国学園というステージを抜けた彼は、新しいステージを作り上げた。だけど、ここももうすぐ終わる。これは確信だ。彼もそれを悟ってはいるが、依然として変わらない。ちらりと視線を向けられた。


「お前だけは救ってやろう」
「何故ですか?」
「ふん、契約にはアフターケアが付き物だろう」
「そう、ですね…」


少しだけ、胸が痛んだけれども気に掛けなかった。これまでもこれからも、彼の遺す権力と悪性な庇護下におかれて生きていくのだと、自分に言い聞かせる。船体が揺れ始め、彼に、背中を押された。その時一瞬だけ振り返った。振り返ってしまった。今までは何があっても彼に指示されたことを絶対としていたのに、今までだったら振り向くことなどなかったのに。彼を見て、頬に冷たいものが伝った。


「私はお前の責任を全て奪う。お前のメリットは責任感を捨てることができることだ。お前は今日から全てを私の所為であると主張できる。但しお前は私の物だ。私の為に生きろ。いいな?」
「はい、分かりました零治さん」



喪失革命





----
影山好きなんです
でも需要あるんですかね?

prev | next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -