偶然にも程があると思うんだ。やっぱり。


「どうかしたのか?」
「うう、ん。何でもないよ」


なまえの目の前には積まれたノートの山。そして隣には帝国が誇るサッカー部の守りの要、源田幸次郎。フェイスペイントは歪むことがなく、相変わらず端正な顔立ちをしている。彼はなまえの返答にそうか、とだけ返してまた歩きだした。正直に言うとなまえはこの孤高の王様が苦手なのだ。理由を挙げるとすれば、サッカー部に所属していること。それからなまえは身長は高いとは言えない。つまり、必然的に見下ろされ、物理的威圧に押しつぶされそうになるからだ。

サッカー部のレギュラーは学園の大半の生徒から畏敬される。それはどの試合においても圧倒的な程に力量の差を見せつけ、勝利を奪い取ることが所以であるが、それ以前に学園で全てにおいてトップクラスであるからだ。家柄、学力、身体能力、人から一目置かれるのに不足ない要素だ。勿論この王様はすべてを兼ね備えているうえに、人目を引く容姿までお持ちなのだ。時折何故自分が帝国に居るのか疑問に思うなまえにとって、彼らの存在は自分の普通さをひしひしと感じさせられる苦々しい存在だ。


「これを教科準備室に持っていけばいいんだな?」
「うん、集めて先生に提出するようにって」
「どう考えても多いだろう、この量は。先生は運ぶ奴への配慮が足りないな」


そういって源田は口元に笑みを浮かべた。その爽やかさといったら昔懐かしのはっか飴を口に放り込んだときのように、すうと後引く爽快感と氷砂糖のような甘やかさを含んでいるのだから、なまえは思わず胸がきゅんと跳ねた。

そもそも何故なまえが苦手とする源田と肩を並べて歩いているかといっても、とても一言では言い表わせない。思い返せばこんな風に対話するというのも過去に何度かあったし、何かつくたびに源田に助けられているような気さえする。一番記憶に新しいものでも三日前、階段から足を滑らせて落ちそうになったのを引っ張り上げられた。その前は一週間ほど前に、何故か校内で見つけたはぐれペンギンをどうするべきかと悩んでいた時に引き取りに来たのは源田だった。(名前はペンティーだった。誰が付けたんだろうか。)それ以前だって何度も助けてくれたが、ペンギンと源田がセットでやってくる確率が高い。今回は教壇のうえのノートで出来た富士山(きちんと重ねるくらいしてほしい)を前に途方に暮れていたなまえを見て、慈悲の手を差し伸べてくれたのだ。

なまえが稀に見る不幸体質だったとするなら、源田はそれを上回る不幸体質。いっそ源田不幸次郎に改名するべきだ。なまえは隣を歩く源田を見上げながら胸の奥で呟いた。


「なぁ、みょうじ」
「は、はい!」
「毎回思うんだがいつも俺達って損な役回りばかりさせられていないか?」
「…へ?」


一瞬反応が遅れたのは源田に心を見透かされたのかと思ったからだ。


「お前、前も似たようなことさせられてただろう」
「ま、まぁ、そうだけど」
「嫌な仕事は断ってもいいんだぞ。それにこの間も階段から落ちかけてたし」


かぁ、と血が集まるのがわかる。だがしかし、それを助けてくれたのも源田であるからして、今更恥を知られたところで痛くも痒くもない。ならば何故。なまえはそこまで考えたところ思考を止めた。


「でもここ最近だけだよ、そういうの」
「実は俺もなんだよ」
「え、どういうこと?」
「最近なぜか先生からの頼まれ事が増えた、それからペンギンがよく脱走する」


後者はどう関係しているのか分からないが、サッカー部のペンギンには違いない。(可愛かったから餌をあげたりしていたらいつの間にか懐かれた。)面倒見のいい源田のことだから自然と探す役目をしているのだろう。最近ペンギンと源田に遭遇する頻度が上がったのはそういうことだったのか。なまえは一人合点して、薄幸同士の何とも言えない連帯感から、苦手意識は少しだけ和らいだ気がした。


「で、本題なんだがどうやらうちの奴らが一枚噛んでいたようだ」
「それってどういう」
「簡単に言うと佐久間と鬼道だな」
「佐久間と鬼道さん?」
「雑用何かを手伝わせるのに俺とみょうじを推薦してたらしい、理由はわからないけどな」
「嫌がらせとかじゃないのはわかるけど、何で?」
「さあ?そこまでは聞き出せなかった。やはり本人に聞くべきか」


そこまでは教師に吐かせたということらしい。しかし何故余り接点のない佐久間と鬼道さんが私たちを推薦したのだろうか。確かに鬼道さんなら教師に進言するくらいお手の物だろう。この学園での権力と実力は比例しているのだから。何て考えたところで問題が解決するわけじゃないが、気休めくらいにはなりそうだ。そういえばペンギンの世話と飼育小屋の鍵当番は佐久間ではなかったか、などと考えながら、なまえは少しだけ苦手意識の薄れた源田の横で広い校舎を歩く。



純朴地帯




----
某方が布教してらっしゃった不幸次郎をネタにしたらこうなった。
帝国は世話焼きが一杯と言いたいだけですね。
毎回これくらい長く書きたいのにな。

prev | next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -