夢を見た。
ひどく懐かしくて忘れたくないと思うのに、自分だけが蚊帳の外にいるような感覚。多分昔の夢だ。

いつだったか施設を抜け出して雪遊びに言ったことがあった。これはバーンやグランも誰も知らない出来事で、ただ一人例外がいるとしたらその時横にいた子だけ。


「ね、雪だるまつくろうよ」
「…私は手袋を持ってきていない」
「じゃあ私が後で暖めてあげるからさ、お願い」
「仕方がないな」
「顔、笑ってるよ」



確かにあの時は笑っていた。私も、彼女も、無邪気に何を気にするでもなく自由に振る舞っていた。ただ、今と違うのは背負うものの大きさとサッカーに対する意味だけだ。

また、あの時に戻れていたなら私は、私たちは……


「……何を考えているんだ」


嘆息にも似た息を吐き出して、ふと目線をやった部屋の扉から控えめなノックの音が聞こえた。


「誰だ」
「私です」
「なまえか、入れ」
「失礼します。グラン様から言付けで話があるので来てほしい、と」
「そうか、分かった」
「それから」


息を詰めた。ゆれる瞳がこちらを指すように見つめていて、反らすこともできなかった。


「私はもうなまえではありません。それでは失礼しました」


殆ど表情を動かすことなく必要事項だけを告げて、渇いたドアの閉まる音だけを部屋に残していった。幼かったあの頃とは違う、私も彼女も、風介と言う名前も全てをあの頃に置き去りにしてきたのだ。


「なまえだけは変わってほしくなかったのに、」


一瞬この名前で呼んだとき目線をしたに落として髪を撫でた。幼いころから動揺したときに出る癖。私だけが知っているなまえ。


だけど、そんな小さなものを見つけて安心している自分に、呟くことしか出来ない自分の小ささに、ただ絶望した。


白い絶望





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