やぁ、みょうじなまえさんだよね。


こんなふうに声をかけてきた人は、性別不詳できれいな人。初対面のわりには言葉に疑問符が付いてなかった。誰ですか、なんて無難な返事をしてみたら、あー、とか一瞬たじろいでからアフロディ、と口にした。多分そう呼んでくれって意味なんだろうと私は受け取った。アフロディさん?美の女神様ですか。じゃあ女の人だったんですね、少し男の人っぽいと思ってましたが。いいや、君が思ってたほうであってた。僕は男だよ。まぁ、見たとおり間違われることもしばしばだが。そうでしたか、失礼しました。私人を見る目がないってよく言われるんです。ふざけて言ったつもりはなかったのだけど、アフロディさんは社交辞令か何かだと思ったらしく、その綺麗な赤い目を細めて笑った。まぁ社会なんて勘違いと買い被りで出来ているようなものだと私は控えめながら確信している。人間の本質を望遠鏡か何かで空を観察するみたいに、見通せる人はいないんだ。それは本人ですら気付いていないかもしれないし、もしかしたら私たちが望遠鏡を通して見えている星たちも、実は偽物なのかもしれないんだから。なんて思想してみたものの、今雷門中の正門の前で立ち話をしている私とアフロディさんには、何の意味も持たなかった。兎角、私は人を見る目を皆無といって良いほどに持っていないということだ。で、アフロディさんは何か用があるんですか?私は貴方のことを全く存じ上げてないのですが。あぁ理由にしておくものはあるけれど、別にそれは二の次のようなものだからね。へぇ、つまりそれはどういうことですか?多分二度目になるだろうアフロディさんへの追及。あれ?三回目だったかな?どうやら人を見る目だけじゃなくて、記憶力も衰えてきているようだ。金、と言うには俗っぽくない髪の色。なんと言い表わしていいのかよくわからないのだけど、多分白金に近い前髪を掻き上げて長い睫毛が顔に影を落とした。近くで見ているだけでもこんなに圧倒的な美しさを放っているアフロディさんは遠めにも輝いて見えるらしく、下校中の生徒達もちらちらと私たちの様子を忍び見ていた。何とも居心地が悪いのでアフロディさんに先を促す。君のことが好きなんだ。一目惚れだなんてさすがの僕も信じていなかったのだけど、円堂君から君のことを聞いたときに確信したよ、君は僕が愛するために存在していたってね。はい?二度も同じことを言わせるつもりはありませんが確認です。好きって私のことをですか?いやそんな馬鹿なことありませんよ、それに私は貴方のことを知りませんからもしそうだとしても、それに対する答えは持ち合わせてません。つい勢いに任せて反語まで使ってしまった。まくしたてるわけでもなく普通に言葉を発した私は、焦りなんてものを微塵に感じさせない態度。というかアフロディさんは電波系と言う奴なのだろうか。こんな失礼なことを言っておきながらなんだけど、顔色一つ変えず、寧ろ私の答を含めて全部を知っているような慈愛に満ちた笑顔を浮かべたアフロディさんに私は少しだけ嫌悪を覚えた。僕だって常識くらい弁えている。これは只の意思表示さ、出来る事なら攫って帰りたいところだけど、生憎僕も優先させるべき物があるからね。…それって何だかとても自分勝手で不愉快な気分にさせられます。それではアフロディさん、二度と会えないことを願っています。そうか、それじゃあサッカー部のみんなが待っているようだし僕は行くよ。さらりと髪を翻して下校中の生徒達と逆に、学校内へと足を進めていくアフロディさんを誰もが振り返った。ふぅん、うちのサッカー部はいろんなチームから引き抜いたりしてるって聞いたことがあったけど、アフロディさんもその一人だったわけか。成る程、と納得して私も帰路に着く。何となく思い出してみると嵐のような人だった。荒らすだけ荒らして、発つ鳥跡を濁さずって言葉を知らないのだろうか。私が人の評価をすることは殆どないのだけど、このぐるぐる渦巻く気持ちを整理しておきたいから言っておこう。


第一印象・美人自分勝手それから嫌なひと!


今回の事でまた、私の人を見る目の無さを実感させられた。



---
いみふな文
結局ヒロインは照美に透かし躱されしながら懐柔されていけばいいという自己満

prev | next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -