昔昔のお話で、灰被りと呼ばれた女の子は、魔法使いにお願いしてこっそりひっそり舞踏会にいった。
だけど魔法が解けちゃう前に逃げ出した。ご馳走と貢ぎ物をしてくれる男たちに後ろ髪を引かれながらね。その時ガラスの靴を落としていったものだからあら大変。
もう一度魔法使いに頼んで証拠隠滅してもらったの、ガラスの靴が手掛かりになってしまったら、継母たちに舞踏会に行ったことがばれてしまうから。いや、どっちかっていうと王子さまがウザかっただけなんだけど。
だけど予想外、その日の天気は晴れのちガラスの靴。ガッシャンガッシャン、降るわ降るわ、ガラスの靴が降ってくる。当たったら痛いからみんな屋内に避難。町中割れたガラスの靴で一杯。ふぅむ、なかなかカオスですな。
まさかガラスの靴を降らすとは思ってなかったシンデレラは…
「ねえなまえ、それって何の話だっけ?」
「新訳シンデレラだよ?紆余曲折あったんだけどシンデレラは王子さまと結婚してその国の政治を牛耳って、めでたしめでたし!」
「それ児童向けじゃないよ、人間の汚さと童話が融合してるじゃないか」
「いいじゃないの、実際シンデレラは王子さまが好きだったんだし」
「そんな表現ひとつも入ってなかったよ」
「そこはご愛嬌、おわりよければすべてよし、っていうじゃない」
彼女は想像力が豊かすぎる。普通にシンデレラを読みながら、全くハッピーエンドでも何でもない話を捏ち上げた。ガラスの靴を降らせた、ってどう考えても危なすぎると思うんだけど、彼女は新しい話の誕生だねっ、とご満悦の様子。黒目がちの目をきゅうと細めて笑った。
「もしさ、松野が王子さまだったらどうしてたのよ?シンデレラが好きで、だけどどこの誰かも分からない、さぁどうする?」
質が悪い質問だと言いたくなった。Ifの話なんてあんまり好きではないんだけど、多分、そう僕だったら
「ガラスの靴を掻き分けながら、町中捜し回るね」
「怪我するかもよ?割れたガラスなんて凶器そのものじゃない」
「それでも、だよ」
「見つからなかったら?」
「血塗れになってでも探しだすよ」
B級ホラーもいいところだね。迎えに来た王子さまは血塗れだった、なんてさ。だけどね、僕は王子さまでも何でもないし、況してやそんなお腹のなか真っ黒なシンデレラ相手にそんな無茶しないよ。どうせ紐がわりにされそうだし。
「じゃあ誰の為ならそんな無茶できるの?」
そんなの一人しかいないに決まってるじゃないか
「夢見がちで、バッドエンドを好む我儘なお姫さまさ」
どう?僕の一世一代のプロポーズ。きょとんと目を丸くした君があの話のシンデレラだって言うのなら、ガラスの山を潜り抜けてでも、何なら僕の全部をあげたっていいんだよ。
「なぁんだ、じゃあその話はハッピーエンドじゃないの」
ガラスの山を越えて会いに来て
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被虐主義者なマックス
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