「ちゅーちゅーちゅぶりらちゅぶりららー、はい」
「……なんだ?」
「なんだよぅ、ノリ悪いなぁ」
「つまり続きを歌えと?」
「もちこーす!」
「……はぁ」
「おい、何故溜め息ついたし」


なまえの手に握られているのは、言わずもがなコーヒー味のぱきっと分けて食べるアイスだ。それを豪炎寺にずぃ、と押しつけて笑んだ。もし今の季節が七月の中旬辺りの真夏真っ盛りであれば、豪炎寺もそれを有り難くいただいただろう。しかし今の季節はその真逆、師走、つまり十二月であるわけだ。炬燵の中でぬくぬくしながら贅沢感を味わうなら未だしも、吹雪が吹き荒れる北海道でそんなものを渡されたものなら、ちょっとした、いや、かなりの嫌がらせではないかと思わされるだろう。勿論豪炎寺もその例に洩れず、眉間にしわを寄せじっとなまえの手を見つめた。


「いらない?」
「今の気温知ってるか?」
「えーと零下一度ですな」
「知っててそれを勧めるか?」
「いや、だって二つあるじゃん」


生憎今はなまえを止めてくれる鬼道も円堂もいない。豪炎寺は正面に見える白恋中の校舎に向かって二度目の溜め息を吐きかけた。みょうじ節全開、我が道を行く、今まで生きてきた道に立つ障害物は、全て粧して躱して、或いは破壊して生きてきたのではないかとすら思いたくなる。きっと彼女の辞書に妥協という言葉は乗っていない。

「あー、溶けるどころか逆に凍っていくよー」
「当たり前だろ、それより手袋位しないと霜焼け…」
「豪炎寺ー、何か手がちくちくして痛い」
「注意するのが遅かったか」

青と黄色のジャージの袖のなかから赤みを帯びた手の平がのぞいている。勿論アイスは今だに握られたままだ。


「おい、アイス一回下に置け」
「えーやだよ」
「雪があるから直に地面に着くわけじゃないだろう」
「いや、気持ち的な問題で」
「凍傷になるぞ」
「既に感覚ないから変わんないんじゃない?」


屁理屈がよく出てくるものだ、と言葉一つ一つが嘆息混じりに聞こえてくる。豪炎寺はなまえに聞こえないように、仕方ないと呟いた。

「冷たいな」
「あたしのアイスー!って痛ぁ!!」
「痛覚はまだあるみたいだ、よかったな」
「良くないっての、いきなり手ぇ握らないでよ」


豪炎寺はアイスを奪い取って、積もりに積もった雪のうえに(なまえが後からうるさそうなので比較的新しく積もった場所に)置いた。長い間冷気に晒されていたなまえの手は、外界から受ける感覚すべてを痛覚に変換するようだ。しかしなまえが豪炎寺の手を振り払おうとする素振りは見受けられず、大人しく繋がれたまま。不意に呟いた。


「あ、そうだ、」
「何だ?」
「まだ感覚ないから掴まってていい?」
「…それまでならな」


その後、仲良く手を繋いでキャラバンに戻ってきた二人を目撃した者が、誰に洩らしたのか、暫らくの間は二人をからかうネタが尽きなかったらしい。



デートと呼ぶには無理があるけど




豪炎寺の口調が誰かと被る……

prev | next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -