(……靴はどこだ)


日暮れ前に一瞬だけ見える黄色い世界、安っぽいガラスなんかを通してそれを見るのはたやすい。そして、何がしたいのだ靴箱の前でただ茫然と佇む私よ。予想外の展開というものには毎回ながら頭でわかって体が着いていかない。鈍いなぁ、なんて自分に素敵な嘲笑を贈りながら、黄色いスポットライトに彩られた花道をペタペタと裸足で歩く。因みに靴下はびしょ濡れで気持ち悪かったから鞄の中にしまってある。今日迄で何回目だろ、飽きないなぁあの人たちも。それにしても、舞台衣装がぼろぼろの制服、ときたら演目はいったい何になるのだろう?現代版の灰被り?はは、あれはえげつないから此方から願い下げしたいよ。あたしは別に継母や姉たちを怨んだりしてないから、仕返しだの何だの考えちゃいない。


「……あれ、何してんの?」


進行方向に何やらキョロキョロとしている人。声をかけた。その人の肩が大袈裟に跳ねたのは見なかったことにして、話を続ける。


「ここ、誰もこないけど誰か待ってるの?」



振り向いて、驚いたような顔をしていたその人は、一瞬言葉を失ったかのようにぱくぱくと口だけを動かした。いや、この場合驚きたいのはこっちの方だ。


「源田?」
「みょうじ?お前何でそんなびしょ濡れなんだよ。」
「突然雨が降ってきた。」
「今日は晴天、降水確率は0%、わかりやすい嘘はつくなよ」
「いいじゃん、予想位付くんじゃない?それより何してるの?」



そう返したら、自分のことを一番に考えろよとため息をつかれて、「うちのクラスの女子たちが誰かの靴を持ってこっちにいってたからな、もしかしてと思って」と言われた。あら、もしかしなくてもこれはいいこと聞いたんじゃないか?


「それたぶんあたしのだ」



あくまで冷静に言ってのける。想像はしていたから動じなかっただけだが、あまりの程度の低さに呆れたともいえる。あんたらは小学生低学年レベルかっての。曲がりなりにも帝国生なのだから……と言ってやりたいがあたしもそう誇りを持つことに興味はない。


「この辺りで合ってるのよね」
「ああ、」
「ありがとうね」
「気にするな」


この辺りは旧校舎と呼ばれて使用されていない、らしい。源田曰く。別に立入禁止になっているわけじゃないが、わざわざここらにくる生徒もいない。あぁ、だからやけに静かだったのか。

「あ、あれ」
「何?」


暫く探していると源田が声を上げた。その視線の先を辿ると軽く埃を被った棚に目が行った。



「あった、けど届かない……」


ペタペタ水滴がしたたる制服をなびかせてそこまで歩いていって手を伸ばすが後数センチ身長が足りない。困った。


「ほら」


横から伸びてきた日焼けした腕があたしのと並んだ。

「さんくー」
「ああ、そういえばそれ隠してた女子たちにやめるようにいっておいたから、明日から嫌がらせなくなると思うぞ」



にっこりいい笑顔の源田から靴を受け取った。多分言っておいたというより、あいつらからしたら半分強迫擬いだったとおもうんだけど、というのは黙っておく。そんなことより。



「うん、決めた。」
「ん?何をだ?」
「源田、好きになると思うからこれからよろしく。それじゃまた明日。」
「……え、ちょっとみょうじ?」


困惑という文字を体現してくれた源田を置いて再び靴箱に向かう。恋は戦争。宣戦布告は当たり前。全く、助けてくれたのが王子様なんてどこのお伽噺かしら。



灰被りの恋愛模様にござい





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