ゲー研には鍵当番なるものが存在する、その名の通り鍵を保有し真っ先に部室を開けねばならない日替わり制度であった。そして本日は遊馬が件の鍵当番だ、遊馬が部室に行かない限り他の部員は待ちぼうけを食らう羽目になってしまう、それ故遊馬は急ぎ足で部室に向かっていた。
 ゲー研部室は部室棟二階隅に位置している、先輩曰く中々の立地だそうだがその良し悪しは遊馬には判断しかねる所だった。既に誰かが待っていたらどうしよう、一抹の不安を抱く遊馬であったがポケットに入っていた携帯がティウンティウン、と着信を告げたことであっという間に現実に引き戻される。唐突な着信にわたわたと慌てた遊馬は発信者名を見ることもなく通話ボタンを押した。

「ど、どちら様ですかっ!?」
「ああ、俺だよ、俺」
「……なんだシャークか」
「テンション下げんな、馬鹿野郎」

 どうやら発信元は部活の先輩であったらしい、一気に声のトーンを落とした遊馬に対して電話口の向こう側で凌牙が悪態をついた、悪ふざけの範疇ではあるのだが。部室棟に向かいながら、遊馬は凌牙と通話を続けていた。

「部長曰く、奥平の奴は少し遅れるってよ。俺は今から部室向かうから」
「うっす、あれ、部長は?」
「あー、なんだったか……思い出した、委員会の会合だ」
「うい、把握。じゃあまだ誰も来てないんだよな」

 かんかん、と高い音を立てて備え付けの階段を上がっていく、そろそろゲー研部室の扉が見える筈だ。鍵を取り出しつつさぁ今日も自堕落部活動の始まりだと顔を上げた遊馬が目にしたのは、部室前に屯する七人もの男女の姿だった。
 おかしい、色々とおかしい点が複数ある。その一、ゲー研部員は遊馬含めて総勢四名である、当然七人が屯しているなんてことは有り得ない。その二、女子部員は居ない、半ば部員になりかけている小鳥だって所属は吹奏楽部だ。その三、先輩三人は未だ部室に来ていないと連絡を貰ったばかりである、凌牙がそんな必要性の見受けられない嘘をつくとも思えない。その四、どう見てもこいつら中学生じゃない。

「不審者ーーーッ!!」

 遊馬の高らかな叫びは部室棟を揺るがし通話中だった凌牙の耳に甚大な被害を及ぼしながら、グラウンドの反対側に届くどころか校舎を飛び越えご近所一帯に響き渡った。遊馬の悲鳴がエコーすること暫く、唖然としていた不審者は揃って顔を見合わせたのち遊馬を宥めにかかる。

「いや、私達は不審者ではなく」
「中学校の敷地内に居る私服姿の人間なんて教師か不審者の二択だろーが、おまわりさーん!」
「駄目だ埒があかない」

 不審者の存在に大騒ぎする遊馬を見つめながら七人のうち一人(詳細に言うならば長髪の青年)が困ったように肩をすくめる、当然遊馬の目には入ってはいなかったが。未だ通話の切れていない携帯からは凌牙の声が響いてくる、どうしただとか何があっただとか現状を気にかける声はひどく慌て気味だ。
 終いには不安のあまりか遊馬はぴいぴいと泣き出してしまった。これには不審者一同揃って仰天したが、それよりもっと驚愕させられたのは音声だけを頼りに現状を把握しようと試行錯誤していた凌牙である。かわいい後輩が不審者の存在を叫んで何事だと思っていた矢先、電話口から当の後輩の泣き声が響いてきたのだ、驚かないわけがない。

「参ったな……別に君に危害を加えようとしているわけではないんだが」
「志村、正面!!」
「誰が志村だ貴様、……えっ」

 困惑していますと言わんばかりに頭を抱えながら長髪の青年が遊馬に近付いた瞬間、その背後から大柄な青年が慌てたように叫ぶ。それに反応してぱっと顔を上げた青年の目に飛び込んできたのは、携帯片手に鬼の形相で突進してくる凌牙の姿。

「死ねこのロン毛ショタコン誘拐犯ーーーッ!!」

 凌牙のそんな支離滅裂な罵詈雑言とも思えるほどの怒号と共に、格闘家顔負けのドロップキックが青年の土手っ腹に炸裂した。



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