クリストファー・アークライトは手元でくるくるとシャーペンを回しながら実に疎ましげに一枚の紙と睨めっこを続けていた。かれこれ五日間に渡る戦いは未だ決着しておらず、休み時間になる都度、クリスはただひたすらに立ちはだかる強敵こと部活動入部希望届と睨み合いをするのである。
 そして、そんな境遇の生徒はなにもクリスだけではなかった。少し離れた席でクリスと同じように希望用紙を親の敵のごとく睨み付ける女子、九十九明里もまた部活動に悩んでいた。

「……アークライトくんだっけか、部活決まった?」
「九十九か、困ったことにこれっぽっちも決まる兆しが無い、そっちはどうだ」
「それに同じく、決まりそうにないわ」

 同じ悩みを持つ者同士、会話というのは案外始めやすいものである。遂にはペンを放り出して椅子にもたれ掛かった明里は気の抜けた声でクリスに問い掛けそれにクリスが同じような声音で返事を返す、ここ最近よく繰り広げられる光景だった。
 二人が部活動に悩む理由として最大とも言えるのがそのレパートリーだった、正に平々凡々な部活の名前が並ぶ中からこれといったものが見つからないのである。更に困ったことには部活は強制入部であるということだ、つまり必ず何らかの部活に入らねばならないと学校側から提示されていると。

「もうやってらんないわ、こんな事!」

 明里は忌々しげに悪態をつくと、手元で偉そうに部活動入部希望届の八文字を主張する紙をぱたぱたと折り始めた。まず縦に折り目をつけて次に上側の端を真ん中の線に合わせて折り、あとはちょちょいのちょいで紙飛行機の出来上がりだ。
 それを手にした明里はかつかつと窓際に近づくとがらりとアルミサッシの窓を開いて、紙飛行機を力の限りぶん投げた。白い機体は綺麗な直線を描いて飛んでいき、最後はフェンス近くの垣根まで至って木々の間に突き刺さる。そうして明里は唖然としているクリスを振り返って、

「アークライトくん、それ貸しなさい。空高く飛翔させてやるから」

 この暴挙である。さぁよこせとばかりに右手を突き出してくる明里に驚愕のあまり暫し動けずにいたクリスであったが、不意に噴き出すと手元の用紙を明里と同じように折り始めた。そうして出来上がったのは当然一機の紙飛行機である、クリスは既に開いていた窓目掛けて力一杯紙飛行機を放り投げた。やはり紙飛行機は美しい直線を描き風を切って突き進んで、先程明里が飛ばした紙飛行機よりもすこし離れた垣根に突っ込んだ。今度は明里が驚愕する番だった、ぽかんと大口をあけたままの明里を横目で見やって、クリスはくつくつと喉の奥で笑う。

「これでお互い入部届を提出できなくなってしまったな、さて、どうしたものか」
「……バッカじゃないの?」
「馬鹿はお互い様だろう、そもそも先に事をしでかしたのは君の方だ」

 馬鹿だ、初めて言葉を交わした時から馬鹿だとは思っていたがこの男子生徒はその想像を遙かに越えるとんだ大馬鹿野郎だったらしい。明里はあきれ半分つられ半分で笑っていたが、ふと思い立ったかのようにぱん、と手を叩いた。何事だと視線をやってきたクリスに向かって明里はにやりと笑むと、名案と言わんばかりに目を輝かせながら声高々に言い放った。

「無いんだったら、創ればいいのよ!」


〜以下二人による会話より抜粋〜


「九十九は何部を創るつもりだ?」
「そうね、新聞部でも作って学園行事からスキャンダルまでばら撒いてやろうかしら。アークライトくんは?」
「私は……そうだな、ゲーム研究部でも創ろうかと思っている」「ゲー研かぁ、なんか予想外。そんな真面目君な成りして案外ゲームとかするんだ」
「人を見た目で判断するのは良くないぞ、私は真面目だなんだと言われるが中身はとんだ屑野郎だ」
「屑を自称する人間なんて初めて見たわよ、どんだけ屑なの?」
「一日の、というか自宅にいる時間のほぼ全てをゲームに費やすくらいには屑だ」
「ああ、そういうタイプの屑かー……っていうか自宅で勉強は?」
「学校の課題しかやらないな」
「それで学年一位とかそれはそれで屑野郎ね、ちょっと脳味噌分けてよ」
「だが断る」
「ケチ」
「何とでも言え。ところで、どうやって部活を創設するんだ?」
「学校側を脅迫する」
「九十九のほうがよっぽど屑らしい発言してるぞ、で、何を使って……、」
「この写真ねー、教頭を偶然町で見かけたからこっそり着けてたらどうやら絶賛浮気中だったらしくて、その時手が滑ってうっかりシャッター切っちゃったのよねぇ」
「そうか、うっかりなら仕方ないな」
「仕方ないでしょ?さて、教頭はどこにいるのやら」
「あ、あの禿げ散らかり具合は……」
「教頭だわ! さぁ捕獲するわよ、アークライトくん! ヒアウィゴー!」
「私がやるのか!? 九十九は!?」
「高みの見物とさせてもらうわ」
「屑だー!」



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