「ああ、ゲー研……そういやあったわね、そんな部活も」

 バウムクーヘンをかじっていた明里は弟の部活話にふと手を、否口を止めて顔を上げた。明里は遊馬らの通う中学校のOGに当たる女子大生である、学校の話で遊馬と盛り上がることは少なくない。

「確か同級生が創部したのよねー、私に合った部活が無い以上仕方あるまい、的な事を言って」
「……変な人だなぁ、そいつ」
「ええ、変人で変態、尚且つ顔は無駄に良くて要するに残念なイケメンってやつだったわ」

 遊馬の発言ももっともである、話を聞く限りゲーム研究部創設者は変人以外の何者にも思えない、今まで会話に出てきた要素を総括して出来上がる人物像はまさしく変人の一言につきる。
 思いも寄らぬところでゲー研の歴史の一片が聞けたことに遊馬は少なからず驚いたが、卒業生である明里がそのくらい知っていても不思議ではないのかもしれない。明里だって決して目の前では言えないが結構な変わり者であり、教師の浮気現場を収めた写真をネタに脅迫して半ば無理矢理新聞部を創設したことは未だ学園の語り草だ。

「学園中の有名人だったから嫌でも名前を覚えちゃったっていうか、ある種知人というか悪友というか……新聞部が取材しに行ったこともあるし」

 やれやれとばかりに首を振りながら明里はそう言った、時の過ぎた今となっては明里のほうが有名人となりつつあるという事実は黙っておくことにしよう。名前、なんて言葉が飛び出して興味を隠しきれるわけがなく、身を乗り出してきた遊馬の意図を汲み取ってか明里は創設者の名前を口にした。

「クリストファー・アークライトって奴で、外人って理由で只でさえ目立ってたっていうのにその矢先に訳わかんない理由で部活創設しちゃったもんだから、そこからはまさしく超有名人よ」

 まさかの新事実発覚である、創設者はあろうことか外国人生徒だったらしい。マジで、と今度こそ驚愕する遊馬の呆然とした有り様を見やりながら、明里はふと思い出したかのように続ける。

「今年で弟が中三になるって言ってたから、もしかしたらその弟くんもゲー研だったりするかもね」

 そこで遊馬はふと気付く、弟が中三でゲー研に所属している可能性のある外国人だなんて言われたら。思い浮かんだのは現部長の天使の微笑みである、そういえば入部当初の自己紹介で彼はなんと言っていただろうか、自分は外国人で兄がいて苗字はアークライトだと言っていた気がするが、まさか。

「世界って狭いなぁ……」

 ぽつりとそう呟きながら遊馬は明日部長を詰問することを心に決めた、脳内では三つ子の魂なんとやらなんて言葉がぐるぐると巡っていたわけではあるが。


〜以下二人による会話より抜粋〜


「あとは後輩三人が所属してたんだけど、そいつらも曲者揃いだったというか……」
「ゲー研って変人が集まるオーラでも出てんのかな、俺も大概変人だから否定はしないけど」
「無きにしも非ず、ってとこかしら。あの時は女子部員も居たけど、今はどうなの?」
「野郎だけ、別にむさ苦しくはないけどな」
「だったら小鳥ちゃんでも引きずり込めば良いじゃない、女子部員も話し相手も増えて一石二鳥でしょ」
「あー、無理無理。小鳥はあいつ曰く常識人な傍観者ポジションらしいからさ、そんなこと言ってる時点で変人ではあるんだけど言ったら殺されそう」
「あんたに感化されたんじゃないの?」
「……ひっでーこと言うなぁ」
「まぁそれはともかく……あ、そう言えばあたしのとこに幾つかソフトあったから部に寄付しといてあげて」
「マジで、サンキュー姉ちゃん……って何でんなもん持って……」
「取材で何度かやったのよね、せっかくだからこの赤い扉を選ぶぜのアレとか、これはひどいだとか色々」
「なんでそんなクソゲーばっかり」
「確か特集組んだのよ、クソゲー総集編みたいな感じで。ただひたすらにクソゲーをやり続ける作業はまさしく地獄だったわ」
「……刺身の上にタンポポ乗せるのとどっちがマシ?」
「タンポポ」
「即答かよ! どんだけ面倒だったんだその企画!」
「冗談抜きであれは悪夢よ、ただひたすらに死んでコンティニューの繰り返しだもの。あんたもやればわかるから頑張りなさい」
「死にゲーはもう勘弁してください……」



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