差し入れを持ってやってきた小鳥及びその友人二人がゲー研部室で目にしたのは、女子制服の下にジャージを着込んだ遊馬が先輩三人に取り囲まれてさながらかごめかごめのようになっているという異様な光景だった。半ば反射的にばーん、と音を立てて扉を閉めた小鳥は後ろで唖然呆然としているセイとサチを振り返る。

「……小鳥、なにあれ?」
「多分ゲームで負けて罰ゲームでも受けてるんだと思うけど、ひどいわね」

 蚊の鳴くような声でそう問い掛けたサチに小鳥は慣れた様子で返事を返した、なにもゲー研の頭がおかしいとしか思えない罰ゲームは今に始まったことではないのだ。
 既に若干引き気味な二人に逃げるなと視線で諭しながら、小鳥は意を決して再び扉を開く。そこにいたのは先と変わらず、残念な女装姿を晒す遊馬とそれを取り囲み好き勝手喋っている先輩らの計四人であった。相変わらず混沌とした空間に踏み込みながら、小鳥は一番近くにいたミハエルに声をかける。それに気付いて振り返ったミハエルはぱちぱちと数度瞬きをしたのち、にっこりと王子様スマイルで微笑んだ。

「こんにちは、小鳥さん。それにそっちの二人は……セイさんに、サチさんだったかな?合ってる?」
「ええ、正解ですよ。一、二回しか顔あわせてないのによく覚えてましたね」
「自慢じゃないけど記憶力はいい方なんだ、ゲームの攻略法とかだったら尚更覚えやすいけど」

 ゲー研部長ことミハエルはその中性的な顔に笑みを浮かべたまま、小鳥と言葉を交わす。彼も他の部員に違わず黙って立っていれば皆が振り返るほどの美少年なのだが、それと同時にとんでもない曲者でもあった。詳細は置いておくとして、そんなミハエルに小鳥は差し入れに持ってきたシュークリームの箱を手渡す。

「吹奏楽部の差し入れだったんですけど、数を間違えて余っちゃったんです。ちょうど四個入ってるんで分けて食べて下さい」
「わあ、ありがとう! 皆ー、小鳥さんたちが差し入れ持ってきてくれたよ!」

 ミハエルが後ろの連中に声をかけると、三人が揃って顔を上げて三者三様なリアクションを取った。先程までデジカメを構えていた風也は大慌てで備え付けの給湯室に駆け込み、凌牙は感心したように軽く口笛を吹いて、遊馬は女装姿を見られた羞恥のあまり爆発せんばかりに紅くなってしまう。遂には膝からがくりと崩れ落ちて床に伏してしまった遊馬に、ミハエルが慰めるように声をかけた。

「大丈夫、似合ってる!」
「全然フォローになってねぇよ、部長……」

 ぐっ、と親指を立てたミハエルを恨みがましげに睨みながら遊馬はぼそりと零す、もっともな返答ではあるのだが。未だ挫折ポーズをとったままの遊馬とそれを的外れな言葉で慰めるミハエルを放置して、暇を持て余していたらしい凌牙がふと口を開く。

「三人とも、茶でも飲んでくか?」

 学園一の札付きにそんな言葉をかけられたセイとサチの常識人コンビが驚愕しない訳がなく、二人は揃って小鳥にヘルプを要求する視線を送った。それを汲み取った小鳥は小さく笑むと、凌牙の提案にこくりと頷く。片手を上げて了承の意を示した凌牙が給湯室に顔を出し、既に飲み物の準備をしていたらしい風也と言葉を交わす。その最中も遊馬とミハエルはさながらコントのような遣り取りを続けており、不可思議なその光景にセイとサチはやはり呆然とするしかなかった。


〜以下七人による会話より抜粋〜


「三人ともひどいんだぜ、罰ゲーム内容が決定した瞬間俺を袋叩きにしにきやがったんだ!」
「それはまぁなんとも……ご愁傷様……」
「別に僕らは打ち合わせとかしたわけじゃないよ、ただ、女装させるんだったら遊馬が一番面白そうだなぁって思考が一致しただけ」
「なおの事悪いわ!後輩いじりもいいとこだぜ!」
「で、こうして遊馬が俺たちの前で生着替えプラス女装を晒すことになったわけだが」
「……着替えも?」
「うーん、嫌がる遊馬を僕らが押さえつけて無理矢理着替えさせた感じかなー……」
「話だけ聴くと先輩たちがゲスにしか思えませんね、ゲス代先輩にゲス平先輩」
「おい観月ふざけんな」
「凌牙くん落ち着いて、観月さんの言うことも最もだよ。まぁ、かく言う僕も遊馬の服を脱がすのを若干楽しんでた節があるというか、ある意味興奮したというか」
「へ、変態だー!!」
「ははっ、何を今更」
「開き直ってる変態ほど手の施しようがないものって存在しないと思うんだよね、僕は」
「ひどいなぁミハエルくん、僕が変態という名の紳士と化すのは遊馬限定だよ」
「それはそれで問題ですよ」
「……ところで、もう耐え難いからそろそろ着替えていいか?」
「その前にジャージを脱いで、」
「もう嫌だ変態しか居ねぇぞこの部活!」
「今更だな」
「うん、今更だよ」



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