公演は終了した、来場してくれた人達は時が過ぎるにつれてどんどん捌けていく。結局臆病者のままだった僕は最後までゆうまに声をかけることができなかった、一体僕はどこまで小心者なんだろうか。はぁー、なんていう間延びしたやる気のない溜息が零れるだけで、僕は自分の駄目さを嘆くしかなかった。
 通り過ぎていく来場者の位置から壁の影に隠れた僕の姿は見えないだろう、少なくとも人々が此方を見ないところから察するに。雑踏は時計の針の進みと反比例してどんどん減り、終いには数分置きに時折聞こえる程度になってしまった。

「……はぁ、」

 本当に、溜息しか出ない。まさしく臆病者な僕が彼女に声をかけたいなんて思った事自体が、あまりに分不相応な間違いだったのかもしれないとすら思ってしまう。
 そろそろ最後であろう来場者の足音が会場の奥の方から響いてくる、もう先程までの喧騒なんてどこへやら、通路は静寂に包まれていた。これで心労を募らせるイベントも終了だ、やれやれ、と思ったところで。
 がしゃん、という何かをひっくり返した様な音と軽い物が散らばる、僕らはよく知っている、言うなればカードが散らばるような音。それと、

「わ、わぁっ!?」

 なんていう、ちょっと幼い印象のある驚きの悲鳴。ただならぬ事態、というわけではなさそうだけれども当事者が困っていることに変わりはない。困っている人を放っておける程僕は他人に無関心ではなかった、これが短所か長所かははかりかねるところだけど。
 声のした方に顔を出せば案の定、通路には目測でデッキ一つ分ほどのカードが散らばっていた。そして、その真ん中で狼狽えながらカードを拾っている、真っ赤なジャケットを着た女の子。
 眼にした瞬間、どくん、と心臓が大きく跳ねる。ゆうまだった。先程までずっと心に思い描いていた少女が今、そこにいる。
 散らばるカードに手を伸ばして拾い上げてみれば、カードに描かれた魔法使いの少女と目が合った、その隣には決闘者なら誰もがお世話になっているであろう強力無比な蘇生カードが落ちている。拾ったカードをまとめて、未だ通路に膝をつきながらカードを拾っていたゆうまに無言で差し出した。

「え、あっ、ありがと!!」

 ぱっ、と顔を上げたゆうまが嬉しそうに微笑む、正直に言おう、可愛い。
 エスパーロビンの衣装を纏っていない僕は、僕の素顔を知らない人から見たら弱気な少年といった風貌だろう。事実、ゆうまは僕がロビンだということに気付いていないようだった。
 頬を引き攣らせつつも微笑み返す。照れ笑いのような笑みを浮かべながらゆうまはカードの束を受け取った、けれど。
 カードを差し出す僕の指先とカードを受け取るゆうまの指先がうっかり触れてしまった、そう、うっかり。彼女に他意はない、あるわけがない、そう自分に言い聞かせるものの僕の心臓はばくばくと脈打つばかりだった。
 神様、いくらなんでもこんな漫画みたいな展開にしなくてもよかったんじゃないですか、僕は心の中でそう悲鳴を上げた。


オ ペ ラ 座 の 英 雄

( 運 命 編 )



2012.04.01


 

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