僕の一挙一動に対し湧き上がる歓声は嬉しいものではあるけれど、正直な話耳に響いた。女性特有のその声があたかも耳を刺すようで、必死に浮かべた笑みが崩れかけたけれど、そんな事をしてしまえば来場してくれた人々を裏切るも同然だ。
 だから僕は、エスパーロビンらしいニヒルな笑みを仮面のように張り付けて、エスパーロビンの声で叫ぶ。

『さぁ、大盤振る舞いだ!!』

 スピーカー越しのその声ですら、がん、と響いて僕を圧し潰した。ああ、頭が痛い。



 僕をぐるりと取り囲むようにして数多の女性が僕を見ている、気なんて一切抜けやしない。
 女性は皆思うままに着飾って、自分の思う最高の自分を創り上げているのだろう。それが別段悪いこととは思わないけれど、だからといって物凄く良いことだとも思わない。幾ら着飾っても、人間の本質は変わりはしないのだから。
 笑顔を張り付けたまま辺りを見回す、やはり似たように着飾る女性、女性、女性、

「……あ、」

 まるで着飾らないひとりの女の子が、ふと目に付いた。
 ぱっちりとした大きな瞳とうさぎ形した林檎みたいな髪の毛が印象的な、ちょっと強気そうな、だけどかわいい女の子。隣に立っている同い年くらいの少女にしかめっ面で話しかけている、何だか不機嫌そうな顔した女の子だった。肩をさらけ出した服装に、寒くないのかなぁ、なんてどうでもいいことを考えた。

「ゆうま、」

 隣に立つ少女が女の子に声をかける、どうやら女の子はゆうまという名前みたいだ。どんな字なんだろう、優真、悠真、祐馬、女の子にはちょっと不釣り合いかもしれない字面ばかりが浮かぶ。
 気がつけば僕は周りのことなどお構いなしに、彼女たちの会話に耳を澄ましていた。

「ごめんね、私だけ楽しんじゃってる」
「別に良いよ。ロビンのファンなんだろ、ことり」
「そうだけど……ゆうま、つまんなさそうだったから」
「まあ、あてが外れたかなぁ……」
「あてが外れたって、どういうこと?」

 ぽそぽそ、こそこそ。女の子特有の囁きあいみたいな内緒話に耳を澄ましている僕の姿は、なんだかとても馬鹿馬鹿しかった。
 ひどく落胆したような表情を浮かべて、ゆうまは寂しそうに呟く。やさしくて、あったかい声だ、あれをすぐそばで聞けたならどんなに幸せだろうか。

「ロビンってさ、強い決闘者だって聞いてたから」

 その言葉を聞いた瞬間、えっ、と小さくこぼしていた。強い云々はおいておくけれど、僕が決闘者だなんて業界人でも知っている人は少ないくらいだ。
 よく見れば、ゆうまのベルトには真っ赤なデッキケースがくっついている。きっとゆうまも決闘者なんだろう、だからこそあんな事を知っていて、このイベントにやってきたのだろう。
 飾らなくて、決闘者で、少し気が強そうな、ゆうまという名のかわいい女の子。僕を取り巻く人の中でたったひとりだけ、まるで違ううつくしい世界に生きているような、無垢で綺麗な女の子だ。

(僕、は……)

 もし神様がいるのなら、僕に、彼女に声をかけるだけの勇気をください、仮面の下で、そう願った。


オ ペ ラ 座 の 英 雄

( 邂 逅 編 )



2012.03.23


 

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