「ん、」

 そんな小さな主張の声と共にことん、と音を立てて机の上に置かれたタッパーに凌牙は瞬きを繰り返したのち、遊馬の顔を見つめ返した。
 凌牙はまさしく説明を求めているような表情で遊馬の動向を伺っていたが、ぐいぐいと半ば無理矢理のようにタッパーを手渡されて少々まごつきながらその蓋を開ける。ふわ、と甘く優しい匂いが鼻を擽って、凌牙は思わずタッパーの中身を覗き込んだ。
 そこにあったのは、ずらりと並んだマフィン。如何にも手作りといった風情で佇むそれらは、しかし明らかな魅力を纏って凌牙の食欲に訴えかけていた。

「どうしたんだ、これ」
「調理実習で作った」

 マフィンと遊馬の顔を交互に見比べた凌牙を見つめて、遊馬は笑いながら食べてくれよと一言告げる。凌牙は若干躊躇しながら小さめに出来上がったマフィンを手に取り、甘い匂いを漂わせるそれを一口囓った。
 焼き菓子特有の柔らかい食感、あとからやってくる自然な甘みと優しい匂い。
 もぐもぐと咀嚼しながら、凌牙はそのマフィンの完成度の高さに心底驚いていた、幾ら基準となるレシピがあるといえど中々の出来栄えである。

「……うめぇな」

 一口分を飲み込み満足げにそう言った凌牙に、遊馬は花の綻ぶような笑顔を浮かべた。嬉しさからほんのり頬を染めて目を輝かせる遊馬の姿は、それこそ花も恥じらう乙女のそれである。

「その、結構上手くできてさ、食べてほしかったんだ」

 人差し指を突き合わせて上目がちにそう言ってくる遊馬を暖かな目で見つめながら、凌牙は手元に残っているマフィンをまた一口囓る。
 遊馬のことだ、こうして持ってきた事に他意は無いのだろうが凌牙としては天に昇る程に嬉しかった。凌牙は蕩けるような甘さを味わいながら、空いた手で遊馬の髪を掻き回すようにしてくしゃりと撫でる。
 へへ、と照れ笑いを浮かべる遊馬と優しく微笑む凌牙を見ながら、二年一組の生徒達は苦笑混じりに溜息を吐いた。


ど る ち ぇ



2012.03.19


 

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