ひやりと冷たい手が頬に当てられて、遊馬はびっくりしてぴょんと飛び跳ねてしまいました。隣では男の子がこの上なく楽しそうに笑っています。くすくすという小さな笑い声が深い深い闇をたたえる夜を揺らしました。
 ふわりと優しく頬に触れた男の子は、遊馬の林檎のように赤くふくふくした柔らかな頬を撫でて微笑みながら言います。

「お前は、あったかいな」

 命をなくしてしまった男の子は、実を言ってしまうとあたたかさなんてものは欠片も分かりません。ただひとつ分かるのは、指先が柔らかな頬に触れているということだけなのです。ですが不思議なことに、男の子には頬に触れた指先からじわじわとあたたかくなっていくように思えたのでした。
 頬を、首を、てのひらを、男の子は宝物に触っているように優しく辿ります。最初はぱちぱち瞬きを繰り返していた遊馬もしばらくすればにっこりと笑い、男の子が嬉しそうにてのひらに触れるのを見守っていました。


 はたと気がついた頃にはちょっぴり遠くに見える村の淡い光もすっかり消えてしまっていましたので、遊馬は慌ててあたりを見回しました。草木はざわざわと唄って、そこかしこの木々の隙間からは獣の息づかいが聞こえてくるようです。
 怖いもの知らずな遊馬でも、こればかりは震え上がってしまいました。そんな遊馬を見て、男の子は静かに口を開きます。

「ついてこい、」

そうして男の子は、遊馬の手を取りました。まるで迷子の子供をあやすような、優しい兄が弟に触れるような、そんな手の取り方です。
 ぐいぐいと引っ張ってくるつめたいはずの手がなぜかあたたかく感じて、そしてそれがあまりにもおかしくて遊馬は笑いました。

「お前も、あったかいよ」

ちぎれた雲の隙間では、お月様がにっこりと微笑んでいます。小高い丘の上では、木にくくりつけられた麻縄が夜風に揺れてぎぃぎぃと不気味な音を立て、去りゆく二人に手を振るのでした。



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