男の子はその狼のような瞳で遊馬をぎろりと睨み付けたままに、首回りをぐるりと取り囲んで遺されている痕を掻きました。磁器のように真っ白い肌に残る赤黒く痛々しい傷痕は、まるでその未成熟な細い首を絞めようと大蛇が絡みついているかのようです。
 麻縄が夜風に揺れる震え上がるほど不気味な音をききながら、遊馬はふとこの男の子はこの首吊りの木にくくられてしまった街の男の子ではないかと思いました。
 男の子の隣にそっと腰を下ろして、おとといの雨でほんの少し濡れている闇色をした地面に投げ出された右手をおそるおそるといったふうに手に取りました。男の子は先と変わらぬ不機嫌そうな表情のままに、その白い顔の上で不自然にぽっかりと空いた赤い口で言います。

「つめたいだけだ、俺はもう死んでる」

 男の子の言う通り、その手はびっくりするくらいにひんやりとしていました。ぽかぽかとしてまるで子猫のようにあたたかい手をしている遊馬からしてみれば、その手はもはや氷も同然です。
 男の子の真っ白い手をじっと見つめた遊馬は小さな手をめいっぱい使って、そのつめたい手を包もうとしました。遊馬がいきなりそんなことをするものですから、男の子はぎょっとして海色をした目を見開きます。遊馬の手はまるで日溜まりのようにあたたかいのですが、男の子の氷の手はそのあたたかさを奪うばかりで夜風のように冷えたままでした。
 遊馬はしばらくその手を握っていましたが、男の子が困ったような焦ったようなふしぎな顔をしているのを見てぱっと手を放します。

「ごめんな、あったかくならなかった」

 しょんぼりと項垂れてそう告げた遊馬に、男の子はまたびっくりしてしまいました。
 貴族に暴言を吐くほど命知らずな、首吊りの木の下に現れる不気味な幽霊なんて大人が見たってひと山むこうまで逃げてしまうものです。それがこの少年どうでしょうか。男の子を見ても逃げもせず泣きもせず、冷え切った手をあたためようとしてくれる子に出会ったのは死んでから初めてでした。
 首を締め付けるきりきりとした痛みが少し和らいだような気がして、男の子は柔らかい笑顔を零します。麻縄は夜風に揺れて、変わらずぎぃぎぃと不気味な音を立てていました。



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