遊馬の住まう村のすぐ近くには大きな街がありまして、そことこちらの丁度真ん中あたりにぽつんと一本、大きな木がその両腕をめいっぱい広げて生えているのが遊馬の家の窓からはそれはよく見えました。
 その木は遊馬が産まれて暫くののち、首吊りの木、などと呼ばれるようになってしまいました。いくばくか昔、街の貴族に文句を言った男の子がその木に首を吊られてしまったらしいのです。
 そんな由来もありまして、そこはいい具合に子供の度胸試しの場所になっておりました。


まるで遊馬を脅かすように両腕を広げてそびえる首吊りの木はにやりと笑うお月様の光を受けて煌々と輝き、影を落としています。男の子が死んだときからつるしっぱなしの、先っぽが輪っかになった麻縄が夜風にぎぃぎぃと揺れてそれは不気味な様でありましたが、あいにく遊馬は怖いものにはめっぽう強かったのでそんな事は気にもとめずに木の根もとに腰を下ろしました。
 揺れる輪っかのまんなかには、ぱっくりと裂けた月が顔を覗かせています。不気味だと時折罵られますが、遊馬はじつのところこの景色が大好きでした。今の遊馬と変わらぬ歳で命を絶たれてしまった男の子はきっと、その時こんな光景を目にしていたのでしょう。

「すごいなぁ、月が笑ってる」

「違うね、あれは月が俺をばかにしてるのさ」

「ふしぎだなぁ、縄が踊ってる」

「違うね、あれは麻縄が俺の悲鳴をまねしてるのさ」

遊馬が呟くひとりごとに、木のむこう側から低い声が返事をしました。二度も返ってきた返事に、遊馬はびっくりして子兎のようにとびはねて、足をもつれさせながらむこう側へと顔を覗かせます。
 そこにはひどく目つきの悪い男の子がじろりと遊馬の事を睨み付けて、とても機嫌が悪そうな顔をして座り込んでいました。また、なんとも痛々しいことに、男の子の蝋のように真っ白な首には麻縄で締め付けたようなあとが夜の暗闇でも分かってしまうほどにくっきりと残っているのです。

「お前もどうせ俺のことをばかにするんだろ、まぬけだ阿呆だなんだって言ってな」

男の子は海のように真っ青な目を遊馬に向けます、びっくりするやら困ってしまうやらで、遊馬はなにも言うことができませんでした。



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