「死者の罪状を間違えたァ!?」

声が裏返るほどに驚愕しながら目をむいたハルトのもっともな反応に、カイトは机の上にでろりと身を投げ出したまま呻くしかなかった。罪状の筆記ミスなど気が遠くなるような歴史のなかでただの一度もなかったというのにこの有様だ、絶望する以外にないのだろう。ばさばさっ、と資料を取り落としながら、ハルトが恐る恐るといった具合に尋ねる。

「で、何を間違えたの?」

「…無罪を、親殺しに」

たっぷり一分は沈黙しただろうか、そうして執務室が居心地の悪い静寂に包まれた後、広い部屋の中に爆風に似た風が吹き荒れた、ハルトが怒ったときに必ずと言っていいほど発生する現象だ。片っ端から灼熱し燃え尽きて消し炭になる資料を横目に見やりながら、カイトは熱さからか寒気からか、なんともいえない汗を流す。すぅっ、と大きく息を吸い込んだハルトは、肺に入れた空気全てを吐き出す勢いで、叫んだ。

「この馬鹿兄さんーーーッ!!」

ぱりーん、と音を立てて、執務室の窓が割れた。



唖然とする三人と不思議そうに首を傾げる少年のもとに忍び寄る影があった。子供と呼べるほどに小柄なそれは、しかし子供には有り得ない毒々しい雰囲気を纏っている。その足元から伸びる漆黒の陰の中には、数多の異形が此方を見ているかのように何者かが蠢いていた。静かに顔を覗かせたその人影、トロンは少年を見やって口を開く。

「おや、捜す手間が省けたね」

仮面の口元から覗く唇で緩やかに弧を描き、未だXの髪をいじっている少年の手を引いた。漸くトロンの存在に気付いたらしい少年が、振り向く。

「きみが九十九遊馬、かな?」

トロンの問い掛けに、少年こと遊馬は大きな瞳をいっぱいに見開いて、ひとつ頷いた。



back


 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -