高等部部活動の予算申請書を実に鬱陶しげな目つきで睨みながら、カイトはその書類を乱雑に机の上へと放り出した。結構な厚みを持った書類の束はばさりと重厚な音をたててその身を投げ出す。書類の端がすこし折れてしまったが、気にしないことにした。
 各々の部活がもっともな理由をつけて予算の増額を要求してきているのだが、それがまさしく建前であることは重々承知の上である。毎月このような申請書がやってくるが、増額を承認した部活は片手の指でも足りてしまうほどだった。

「まったく、どいつもこいつも……!」

 苛立ち露わに無駄に広い生徒会室をうろつく高等部生徒会長カイトの姿を見て、中等部生徒会長ことミハエルは天使の如くにっこりと微笑んで机の上に放り出された申請書を邪魔だとばかりにまとめてゴミ箱にたたき込んだ。
 がごんっ、と鈍い音を立てたゴミ箱は、シュレッダーにかけられた書類やらなにやらですでに一杯だったが、書類の束が入る程度のスペースはあったらしい。
 余談ではあるがカイトが通う学校はエスカレーター制で校舎は初等部から大学部まで全てが馬鹿みたいに広い敷地に収められている。そしてどういうわけか生徒会室は中等部高等部兼用なのであった、そう、どういうわけか。

「で、そっちはどこが一番酷かったの?」
「軽音部だ。万単位での増額を要求してきた」

 学園の王子という呼び名に恥じぬ笑顔を浮かべたミハエルは、殊更優しく微笑んで。

「減額しちゃえば?」

 暴君のようにそう言い放った。ちなみにこのミハエルという少年、王子のような優しい笑顔の裏にとてつもない黒さを秘めているため、陰で皇帝だのなんだのと呼ばれている、少なくともそんな呼び名が高等部にまで届くほどには。
 余計な欲を出したばかりに予算の減額を提案されてしまった軽音部は、傍目から見れば実に憐れなものであったが、生徒会室にいる二人は同情などするほど慈悲深い性格でもなかったので減額を阻止しようとする者は誰もおらず、カイトは名案とばかりにそっと軽音部の予算にマイナス一万の文字を追加した。

「ところでブラコン苺頭先輩」
「なんだ暴君ピンク」
「最近雰囲気変わったけど、好きな子でもできたの?」

 業務中、突如落とされた爆弾にカイトは危うくすっ転ぶところだった。一言怒鳴ってやろうと振り返ったカイトの視界に映り込んだのは、それはもう満面としか形容できないほどの笑みを浮かべるミハエルの姿。

「へぇ、図星だったんだ」

 僕はあてずっぽうで言っただけなんだけどなぁ、そんなミハエルの言葉を聞いたカイトの怒声が響き渡るのはそれから直ぐのことだった。


王 様 の 耳 は 地 獄 耳



2012.02.23


 

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