カップのバニラアイスをつっついていたハルトが何とも年齢にそぐわない事を言い出したのは実に突然であった。

「恋ってなによりも排他的な感情だよね」

 銀色に輝くスプーンで一口分のアイスを抉り取って口に運び、その甘みを暫く味わってからハルトは兄に視線を向けた。暇つぶし程度に本を開いていたカイトはページを捲る手をはたと止め、不可解そうに眉間に皺を寄せる。
 また一口アイスを食べてから、ハルトは淡々と説明するように続けた。

「だって、好きな人のためなら他人を蹴落としたってなにしたって構わないわけでしょ?それは自己犠牲の精神や個人主義以上に排他的だよ」

 とても小学生の口から飛び出す言葉とは思えない内容にカイトは頭を抱える、昔からやけに哲学的な弟だと考えてはいたが、まさかそれ以上にこんな現実主義者とは思いもしなかった。
 からっぽになってしまったアイスのカップに入っているスプーンを手持ち無沙汰にくるくる回しながら、そんな子供っぽい仕草に似合わない発言をする。

「別に恋愛感情そのものを否定してるわけじゃないよ、ただ、恋から愛にかわるまでのプロセスがあまりにも自己中心的なんじゃないかなって、それだけの話」

 からん、と虚しい音を立てて弧を描いた銀色のスプーンを見つめながら、ハルトは静かに席を立つ。ソファーに座ったままのカイトの横に立ち、にっこりと、それはもう満面の笑みで微笑んだハルトはその笑顔に違わぬ明るい声で告げた。

「要するに、」
「排他的でなければ、恋愛というひとつの事象において勝算は無い、と?」
「……分かってるなら行動しようよ」

 他の誰かにお姫様を取られちゃっても知らないよ、そう言いながら自室へと戻っていったハルトの背中を見送りつつ、カイトはその『お姫様』を思い浮かべて困ったように溜息をついた。
 とんだ食い違いだと内心困惑しながら頬杖をついたカイトは静かに、しかし確実に、苦笑混じりの呟きを零す。

「あいつが排他など、認めるわけがないだろう」

 窓の外の庭では、彼女の瞳に似た深紅の薔薇だけがその独り言に耳を澄ましていた。


ミ ネ ル ヴ ァ



2012.02.20 

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