どろどろとした、というのが最も適切な表現であろう恋愛ドラマを見ながら氷菓をかじっていた遊馬は脚本家の趣味の悪さに溜め息をつこうとしたものの、口内を大量の氷菓が占拠していたのでそれは叶わなかった。
 無理心中という最悪の結末しか思い浮かばないそのストーリーは男と女の愛憎劇を極限まで圧縮したような密度だ、見ていて胸焼けがする。

「女性とは皆こうなのか、遊馬」

 隣に座って珈琲(しかもブラックである、甘党の遊馬には理解できない境地だ)を飲んでいたアストラルが静かに問うてきたが、女性らしさに乏しい遊馬はそれに上手くこたえることができなかった。
 アストラルは感情に対しての意識のみが驚くほどに欠落している、告白してきた女生徒を救済の余地がないほどにばっさりとフッたことはもはやハートランド中学の語り草だ。

「……多分、違うと思う」

 もし全世界の女性がこのドラマの登場人物のような腐った性根と下劣な思考の持ち主だったら、世界中の男性が残らず病院に搬送されてしまうだろう。
 漸くソーダ味の氷菓を完食した遊馬は木目を虚しく晒す氷菓を支えていた棒をかじりだした。明里か春がいたら行儀が悪いとしばかれるところだが、生憎件の二人は自室で自らの仕事に耽っていた。先程までちまちまと酒を飲んで共にドラマを見ていた一馬も、酒豪の未来に付き合わされてダウンしてしまったため、現在のところリビングにいるのは遊馬とアストラルの二人だけだ。

「私は、ドラマに出てくる女性をどうも好きになれない」

 アストラルは、独り言のようにぽつりと呟いた。がじ、と氷菓の棒をひとかじりした遊馬はルビーの瞳を泳がせるようにアストラルを見やる。その視線に気づいているのかいないのか、真偽の程は定かではないがアストラルはまた小さく言葉をこぼした。

「まぁ、君のような女性が出てくれば、好感が持てないことも無いだろう」

 かりっ、棒をかじった遊馬の動きが止まって、数瞬。

「……お前、趣味悪いな」


 アストラルが少女のとてつもない鈍感さに気付いた、春先の夜の話である。


月 曜 夜 九 時



2012.02.18


 

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