カイトの眼前、やたらとでかいベッドの上に、一人の少女が誘うようにして身を投げ出している。普段はぴょんとはねてあたかも彼女の有り余る元気を主張しているような髪は酷く乱れて頬にかかり、妖艶とも言える雰囲気を醸し出していた。
 これは誰だ、未だ未完成な細い肢体をさらけ出し己を誘惑する淫猥極まりないこの少女は一体誰なんだ。
 容姿はひどく彼女に似ていた、底抜けに明るいあの少女と瓜二つな形をした眼前の少女は、件の少女には有り得ない淫靡さを醸し出している。健康的な容姿故の厭らしさでなく、唯ひたすらに雌というものを突き詰めたような、言うなれば欲を掻き立てる女性的な魅力。
 唖然とするカイトの目の前で少女は柔らかく微笑み、その熱に浮かされた深紅の瞳をカイトへと向ける。緩く弧を描いた唇が、気が遠くなる程にゆっくりと開いて、

「―――――、」






「うぉわぁぁあぁあ!?」

 そこでカイトは布団をはねのけ、弾かれるように身を起こした。
 窓の外ではちゅんちゅんと可愛らしく雀が鳴いている、時刻はどうやら朝方らしい。カーテンの隙間から入り込み床を照らす細い光を見つめながら、カイトは寝ぼけ眼で瞬きを数度繰り返した。
 朝焼けの光に淡く照らされているのは当然、いつも通りの代わり映えしない自室。

「……夢、か?」
「なにが夢なの?」

 呆然とした呟きとほぼ同時に扉が開かれ、枕を小脇に抱えたハルトが実に怪訝そうな表情で部屋の中へと入ってくる。恐らく先程の絶叫で目を覚ましてしまったのだろう、眉間に寄せられた皺は不機嫌の証だ。
 時計を見ればまだ朝の五時にすらなっていなかった、不機嫌になるのも頷ける。起こしてしまった事を詫びれば、不機嫌極まりない表情のまま頷いたハルトは覚束ない足取りでふらふらと寝室へと戻っていった。
 再び自分以外誰一人として居ない静寂を抱き始めた自室で、カイトは頭を抱えて呟く。

「どうしてしまったんだ、俺は……!」

 青年のそんな葛藤は、朝焼けの光に吸い込まれて消えていくだけだった。


サ キ ュ バ ス



2012.02.15


 

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