月のあれネタ注意




 温く躯を包み込む湯船に張られたぬるま湯に身を委ねながら、遊馬は口元を湯に浸しぷくぷくと泡を吐いた。日に焼けていない白い肢体が薄桃に染まった湯に映える。
 ちゃぽ、と音を立てて顔を上げた遊馬はいつもよりも幾分かアンニュイな表情で湯からあがった。風邪を引いていたり病気にかかっているわけでもないのに酷く痛む腹部を押さえる。きりきりと締め付けるような痛みは尚更遊馬の心をしずめていった。

(なんか、きもちわるい)

 喉元にせりあがってくる不快感を飲み込んで、シャワーのコックを捻る。ざ、と降ってくる生温い豪雨を浴びながらボトルに手を伸ばした、瞬間。
 腹の内で蠢いていた鈍い痛みが、ずるりという生々しい音がしたかのような錯覚を抱いて溢れ出した。途端訪れる強烈な違和感に、遊馬は無意識に口元を押さえた。う、という唸り声にも似た悲鳴が勝手に喉から零れる。余りの不快感と背筋を駆け抜ける寒気に、壁に手をついて膝から崩れ落ちた。
 流れる湯に混じって太股をゆっくり伝う、赤黒いものに目の前がくらりと揺らぐ。

(なに、これ)

 襲いくる頭痛、強烈な目眩、耐え難いほど不快な感覚の嵐に遊馬の意識は白く霞んだ浴室の中でブラックアウトした。



 ふんわりと優しい柔らかさの中で、目を覚ます。弾かれたように起き上がった遊馬の視界に、相変わらず青白い顔をしたアストラルと心配そうにこちらを見つめる明里の姿があった。扉を挟んだ先の居間からは、どうやら両親が慌てているらしい騒音とそれを宥める春の声が聞こえてくる。

「遊馬、」

 力なく、不安げに吐き出された明里の言葉に、遊馬は直感した。自分は、きっと。何も言わずに二人の服を掴んで俯いてしまった遊馬を、アストラルと明里は同じく言葉はなしに抱き締める。
 微かに漂う血の香りが、少女がひとつ月を重ねた事を嘲るかのように、遊馬の頬を掠めた。




月 の 夜 を 経 て



2012.01.16


 

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