使い慣れた一眼レフを片手に、暇人な僕はハートランドを闊歩していた。これという被写体があるわけでもないけどカメラが無いと落ち着かない、カメラマンとして活動し出して一年にもならないというのに困ったものだ。
そう思いつつふと目をやった先に、どことなく見覚えのある若草色の髪を見つけた。綺麗に纏めたお団子髪の少女は、かつての後輩の姿。
「観月くん!」
声をあげて呼び掛ければ、弾かれたように振り返った少女の顔に笑顔が浮かぶ。その隣にいる友人であろう少女が怪訝そうな表情をした。その少女の手を引きながらこちらにやって来た後輩、観月小鳥は変わらぬ少女らしさを宿している。
「久しぶりです、速見先輩」
軽いお辞儀をした観月くんに会釈しながら、その隣でこちらをじっと見つめている少女に目をやった。きらきらと、夕焼けを閉じ込めたような瞳がこちらを見ている。不安げに観月くんの着ている上着の裾を握り締める姿は、彼女と同学年だとしてもどこか幼い。
顔を覗き込もうとすると、ぱっ、と素早く目を逸らされた。それだけに収まらず、観月君の背後に引っ込まれてしまう。本格的に不審者扱いされているらしい、困ったことだ。
「遊馬、大丈夫よ。私の先輩だもの」
その言葉に、ナイスフォロー、と親指を突き立てた拳を差し出しかけた。彼女の発言にほんの少しだけ気を許したらしい、遊馬と呼ばれた少女が顔を覗かせた。
改めてじっくり見てみると、結構かわいい。観月くんみたいな少女らしいかわいさではないけれど、どこか幼く、真っ直ぐな印象を与えるようなかわいさだ。大きくて円い目や、寒さで少し紅くなっている頬や、桜の花弁みたいな唇だって。
ここまで考えたところで、僕はちょっとした違和感に気付いた。なんだろう、観月くんとか、たまに撮影をさせてもらうモデルに対するかわいいと、この子、遊馬に対するかわいいが何となく、違う。
「ぁ……はじめまし、て」
少しどもりながら紡がれた控えめな挨拶と彼女の笑顔に、僕は漸く違和感の正体に気が付く。ああ、なんてこった。がらにもなくそんなありがちな台詞を言いたくなるくらいに困惑した。
そうして僕は、思春期の少年少女にありがちな感情に振り回されるようになる。
2012.01.15