オトコオンナが料理上手くて誰が得するんだろうなー、という直球の暴言は少なからず調理実習中の遊馬の心に傷を付けた。右手にピーラー、左手に人参を持ったまま動かなくなってしまった遊馬を気にかけてか、キャッシーが声をかける。

「遊馬、気にしない方が……」

「そ、そうですよ。料理上手ということは女性として誇っていいと思います」

 つられたようにフォローする委員長はどこか慌て気味だ。
 というのも原因は委員長の背後で黙々と野菜を切る小鳥が発するオーラにあった。幼き頃から仲良く一緒に成長してきた唯一無二の親友を貶されて気分を害さないほど、小鳥は友情という事象に対して無関心ではない。
 それこそ不機嫌全開の小鳥の爆発を恐れてか、それとも唯単に親友への心使いか(恐らくは両方であろうが)、彼の豊富なボキャブラリーは思いつく限りの慰めの言葉を並べていた。
 が、未だ続く罵声に堪えきれなくなった遊馬が瞳を潤ませた次の瞬間。

 だごんっ!!

 と、酷く耳障りな轟音が家庭科室に響き渡った。弾かれたようにクラス全員の視線が音源に集中する。
 そこにあったのは無残にも真っ二つに切り分けられたじゃがいもと木製のまな板に突き刺さる包丁。そして何より、幽鬼のように佇む小鳥の姿。
 普段の可憐な少女らしい彼女の面影など髪の毛の先ほども残っておらず、代わりとばかりに存在するのは明らかな憤怒一色だった。

「あんたたち全員……揃って地獄が見たいらしいわねぇっ!!」

 ぎろり、という形容が相応しい視線を騒ぎ立てていた男子生徒に向けて、小鳥は大声でそう言い放つ。
 家庭科室中を揺るがす怒声は周囲のみならず他クラス生徒の耳にもしっかりと届き、教室で授業を受けていたアストラルは聞き覚えのある声に首を傾げた。

「……何事だ?」
「さぁ……知らねぇけど、死人が出る事だけは確かだな」

 アストラルの前の席に座り、まさしく他人事だといった口調でさらりと受け流した凌牙の表情は、これから血祭りに上げられるであろう生徒達に対して諦めろと告げているような、如何にも悟りきっている表情だった。


キ ラ ー ガ ー ル


2011.12.26


 

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