夜遅く、恐らく時計の針は深夜を回ったであろう頃、アストラルは自室の扉をノックする音で目を覚ました。
この前学校で幾分話題になっていた幽霊というやつか、と思いつつ扉を見遣ればほんの少し開いた隙間から見慣れた深緋がこちらを、じぃっ、と困ったように見つめているのが見える。
アストラルに手招きされて、枕を片手におずおずと入ってきた寝間着姿の同居人は、眠たげな表情の中にどこか不安の色を宿していた。
「何かあったのか、」
常とは違う相手方の様子を気に掛けたアストラルはベッドから降りて、自らの言葉に肯定を示した同居人、遊馬の顔を覗き込む。遊馬の紅玉のような瞳はどういうわけか、うっすらと涙の膜を浮かび上がらせていた。
言っていいのだろうか、とばかりに少々戸惑う仕草を見せた後、遊馬は口を開く。
「……怖い、夢、見ちゃって」
柔らかな枕を強く抱き締める遊馬の肩は、それこそ本当に僅かながら、怯えるように震えていた。幾ら常日頃から気丈に振る舞っていようと、遊馬は一人の女の子でしかない、怖い話は勿論怖いし、苦手なものも沢山あって当然だろう。 か弱い少女の一面を垣間見せた遊馬の姿は、常の様子をよく知るアストラルからしてみれば、やたら儚げに見えた。
「ひとりじゃ、寝れないよ……」
大きな瞳一杯に涙を浮かべる遊馬を宥めて、ベッドに入るように促した。枕を抱えたまま布団に潜り込む姿に苦笑しながら、アストラル自身もゆっくりとベッドに腰を下ろす。
小さな声で舌足らずに呟かれた、おやすみ、の言葉を受け、アストラルは既に微睡んでいる遊馬の頬を撫でて笑った。
「おやすみ、遊馬」
ナ イ ト メ ア
2011.12.22