初めて出会った兄さんの思い人は、実に変わった女の子だった、いや、寧ろスカートを穿いていなかったら女の子だと思えるかどうかも疑わしい。自分の事を俺って呼ぶし、小学生男子も真っ青な勢いで駆け回るし(しかもスカートなのにだ、下着が見えたらどうするつもりなんだろうか!)、髪の毛なんか僕の兄さんの遙か上を行くくらいに変だ。
 でも、初めましてと言って笑うその笑顔にはどことなく惹かれるものがあって。僕の少ない語彙量じゃうまく表現できないけれど、言うなれば太陽みたいな温かさが溢れてた。
 ほんのちょっとだけ、この人を好きになった兄さんの気持ちが分かった気がする。


 この九十九遊馬っていう女の子と話してる兄さんは、それはそれは嬉しそうな顔をしていた。周囲の人から見てみれば大して違わないかもしれないけど、弟の僕からすれば天と地程に差が開いている。
 兄さんはそれこそ表面上は冷静を装っているものの、隠し切れていない嬉しさが笑顔の端々から零れ落ちていた。

(ふしぎな人だなぁ、)

 女の子、と呼ぶには余りにも天真爛漫かつ元気すぎる九十九遊馬さんは、本当に変わっていると言わざるを得なくて、この人を不思議な人だと思うのは必然的な事だったのかもしれない。
 おしゃれに夢中になるよりも、男の子と一緒になって公園を駆け回っている方が様になるのに、時折見せる柔らかい笑顔は女の子のそれでしかなく(それに、その笑顔を少しかわいいなぁなんて思ってしまった僕と兄さんはつくづく兄弟なのだと実感させられる)。話の合間に爪をいじったり、唇に指先を当てたりする仕草にも遊馬さんが女の子なんだと再認させられるばかりだ。
 ころころと空模様のように表情を変えてマシンガンの如き勢いで喋る遊馬さんの言葉に、時折相槌を打つ兄さんの表情はやっぱりどこか嬉しそうだった。
 僕だって小学校ではポーカーフェイスだ能面野郎だなんだと言われるけれど、兄さんはその遙か上を行く無表情っぷり。そんな兄さんの表情まで、嬉々とした笑顔に変えてしまうなんて。ちょっと子供な僕から言わせてみれば、それはある種の。

(魔法、みたい)

 宝石図鑑で見たルビーみたいな瞳をきらきらと輝かせて笑う姿に、どこか非現実的な魅力と何とも言えない奇妙なときめきを覚える。
 初めて出会った兄さんの思い人は実に変わっていて、だけどとっても可愛くて、ついでに魔法が使える女の子だった。


魔 法 少 女


2011.12.11


 

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