ふわ、と視界の端で揺れたピンクのミニスカートに、揺れるモノレールに眠気を感じていたカイトは弾かれたように視線を向けた。その視線に気付いたミニスカートの少女もまた、カイトの方へ視線を向けて。
 二人の視線が合った。ぱちぱち、まつげの長い少女の瞳が瞬きをする。暫くの間を置いた後、少女は柔い笑みを浮かべてカイトの元へと駆け寄った。とすん、と軽い音を立てて少女はカイトの隣へ座る、それに幾らか驚きはしたものの見知った顔との邂逅に彼にしては珍しく優しい笑みを美貌に浮かべた。

「……三日ぶり、か?」
「うん、多分。ここ最近駅とかで会うことも無かったし」
「久し振りだな、遊馬」

 少女、遊馬はその幼い顔に太陽のような笑顔を浮かべてカイトの言葉を受け入れた。かたん、ことん、揺れるモノレールの音が二人の鼓膜を震わせる。



 カイトは人にこそ言わないものの、自分がとある少女に対して友愛以上のなにかを抱いている自覚があった。それを一般論として形容するならば情愛以外の何物でもないのだが。
 だがしかしカイト自身、恋愛という事象には否定的である。学校で女子が騒ぎ立てる内容は単なる雑音にしか思えなかったし、男子が時折零す半ば妄想じみた言葉も絵空事であると信じて疑わなかった。
 それがどういうことだろうか、今まさに自分はその鼻で笑ってきた事象に見舞われているではないか。

(おかしな話だ、)

 少女との会話を淡々と続けながら、カイトは心の奥底で未だ信じられないと疑念を抱いていた。不可思議でやはり妄想じみた感情に苛まれながら、少女の言葉に耳を傾ける。

「おれ、カイトと久々に話せて嬉しかったよ」

 親しみを込めて、少女の口から不意に零れ落ちた言葉にカイトは無意識のうちに顔に熱が集まるのを感じ取った。カイトが口を開く前に、モノレールのドアが開く機械的な音がそれを掻き消していく。少女は鞄を肩にかけ、最後にまた明るく笑って手を振った。

「それじゃ、また今度」

 カイトが腰を上げる前に、少女は駅のホームへと降り立ってしまった。ぱしゅん、と音を立てて閉じた扉の向こうで少女が此方に背を向ける。それに少しのもの悲しさを感じながら、カイトは緩く溜息を吐いて窓の外へと視線を移した。
 橙に染まった夕暮れ空は、変わらずに世界を照らしている。



環 状 線


2011.


 

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