でろん、と力無く椅子の背もたれに身体を預けて天を仰いだ遊馬の視界に飛び込んできたのは深い深い海色だった。
 途端にざわめく教室の中心で、遊馬は突然訪れた先輩こと神代凌牙に目を丸くしながらも笑顔で会釈する。つられるように少々ニヒルに笑った凌牙は、俺の席だ、と言わんばかりにどっかりと遊馬の隣の席に腰掛けた。
 この光景はここ最近となっては特に珍しいものでもないのが現状である。寧ろ半ばこのクラスの風物詩とも呼べるものになっているような光景で、遊馬と仲のいい小鳥や鉄男、果ては等々力やキャッシーまでもが、何時もの事だと割り切って笑顔で受け入れる程度の出来事に収まっていた。

「……まーた、始まった」

 遊馬の正面に座っていた小鳥は呆れか諦めか、やたら無気力にそう呟く。もっしょもっしょと弁当の卵焼きを頬張りながら、彼女は二人のやりとりを見守る事にした。
 この二人は非常に、否、並の程度でないなどという言葉では足りない程に仲が良い。最早決闘狂とも言える決闘好きという共通点も然る事ながら、本来対極に存在するような性格の二人は度々意見や方針が見事なまでに合致するのである。最初はそれこそ先輩が後輩を軽くあしらう程度のものであったが、最近となっては親友と呼んでも何ら差し支えない程に仲が良く、寧ろ周囲からしてみれば仲が良すぎて恐ろしい程だ。
 呆れに呆れる小鳥の眼前で、二人の仲睦まじい会話はハイペースに進んでいく。

「デュエルマガジン今月号出たけど、読んだ?」
「いや、まだだけどよ……何か特集組んでたか?」
「水属性特化型デッキ特集だったぜ」
「……つまり天は俺に味方したと、そういうことか」
「で、持ってきたわけだけど」
「よくやった、流石俺の見込んだ後輩」

 それと、上のやりとりの間にはこんな遣り取りがあったことを補足しておく。凌牙が購買で購入してきたパンを取り出し、ついでとばかりに遊馬の目の前に苺ミルクをとんと置いて、それに対して遊馬が親指を立てて労をねぎらい、そして最後に遊馬が苺ミルクの代金七十円を凌牙に差し出してその場は終息した。
 がさごそと遊馬が鞄を漁るのを見ながら、小鳥は、はぁ、と溜息を吐く。

「……どうした、観月」
「いえ、別に」

 怪訝そうな顔をした凌牙には目もくれず、小鳥は口に放り込んだプチトマトを咀嚼しながら事も無げに無気力な返答をした。
 鞄から顔を上げた遊馬の手には最新号のデュエルマガジンが収まっている。一冊の雑誌を二人で共有しつつ談笑する男女を見ながら、小鳥は再び重々しく溜息を吐いた。

「なにそれ、無意識?」

 二人が小鳥の溜息の理由に気がつくのは、およそ五分後の事である。


傍 観 者 の 苦 悩


2011.12.01


 

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