きらきら、可愛らしい桃色に輝く右手の爪を眺めながら遊馬はほぅ、と感嘆の溜息をつく。控えめながらも少女性を主張するマニキュアは、当然不器用な遊馬ではなく他者によって施されたものだ。
 未だ手つかずの左手を差し出すように催促する小鳥はちらりと遊馬の右手に視線をやり、自らの仕事に満足げに微笑んで。

「女の子なんだから、少しくらいおしゃれしたっていいじゃない」

 幼さを残しつつ、しかしどこか大人びた笑みと共にそう呟いた。少女性、というよりは子供らしさの塊と表現した方がいくらかそれらしく聞こえる遊馬は、女の子特有のお洒落とはほぼ無縁の存在である。
 そんな遊馬を見かねた小鳥が、一応は女子である遊馬をちょっぴり洒落た女子に仕立て上げようと奮闘している次第だ。最初はフリルまみれのキャミワンピなどを薦めたりしたのだが遊馬が頑なに断った為、軽いメイク程度で済ませようという方針である。
 ふわ、と細い指が遊馬の左手を優しく包み、人差し指から慣れた手付きでマニキュアを塗っていく。綺麗に、優しく。桜のような桃色に染められる指先を見つめながら、遊馬はまるで独り言のように声を零した。

「やっぱり、おんなのこらしくした方がいいのかなぁ」

 拙いその言葉は、女子らしさを欠片も主張しない彼女なりの勇気を込めた疑問だった。小鳥はただ静かに、黙々と遊馬の指先を桃色に染め上げていく。

「俺さ、勉強とかおしゃれよりも運動やデュエルのほうが好きなんだ。服を買うよりカード買うし、時間があればデッキ組んでる。学校の階段とか、二段飛ばしでのぼっちゃうし。これじゃなんだか、」

 おとこのこみたいだ、という言葉は喉の奥に引っ込んだ。訥々と語られる遊馬の迷いを聞きながら、小鳥は小さな小指の爪にマニキュアを塗る。漸く塗り終えられた爪は、誇らしくきらきらと、遊馬の指先でその存在を主張していた。それこそ、私を見てと言わんばかりに。

「いいんじゃないの、それで」

 きゅ、と音を立ててマニキュアの瓶に蓋をしていた小鳥は笑いながら言う。塗られたマニキュアも乾いた右手を取って、その手を優しく握る。女の子らしい、柔らかくて温かい掌の感触が遊馬に伝わってきた。

「ちょっとだけでも、女の子なところがあればそれでいいと思うの。今みたいにね」

 窓から入る太陽の光が、淡い色の指先を温かく照らす。少女性に染め上げられた指先は、遊馬が思うよりもずっと愛らしく、そこに佇んでいた。



爪 先


2011.12.01


 

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