「遊馬、朝になったぞ。起きるんだ」

 俺の毎日、というか平日は大抵こんな言葉で始まるのがお決まりになっている。あと五分、と呟けば駄目だとばかりに布団をひっぺがされて朝方の冷えた空気の襲撃を喰らうことになった。あまりの寒さに眠気も忘れてベッドの上で飛び跳ねる。
 がちがち震えながら布団を奪った非情な略奪者を睨み付ければ、無表情はそのままに肩を竦める姿が目に入った。突っ立っていれば人形か何かと見間違えるような顔にくっついた口が、のんびりと開いて言葉を口にする。

「ちなみに今日、君は日直だった筈だが」

 俺は眠気どころか寒さも忘れて階下に駆け下りた。


 朝早くから元気な事だと九十九家に居候している国籍不明の少年、アストラルは何とも言えない表情で溜息を吐いた。
 今し方階段を転げ落ちるような勢いで降りていった、一見すれば少年とも取られてしまいそうな少女、九十九遊馬の元気とパワフルさは呆れを通り越して賞賛の拍手を贈ってやりたいレベルだ。あの元気さは一体どこからきているのだろうか、不思議に思うばかりである。
 そんな思考に耽っているアストラルに階下から声がかけられた。

「アストラルー、俺の鞄とってー!」

 相変わらず威勢のいい遊馬の声。有り余る元気に苦笑しながら(そしてその笑顔に少しの愛しさを含んで)、遊馬の肩掛け鞄と自らのスポーツバッグを手に取りアストラルは階段を降りていった。


 お掃除お掃除と忙しなく動き回るオボットの頭に当たるであろう部分を、少女的なデザインのスニーカーが、だんっ、と音を立てて踏み越えていく。アームに持っていた缶を落としながら憤慨するオボットの頭を今度は革靴が、がごんっ、と実に耳障りな音を立てて踏み越えていった。ガシャコ、と引っ繰り返ったオボットを尻目に二人揃って坂道を駆け下りていく。
 通りかかった公園の時計を見れば時刻は七時三十八分。学校の門限はでは三十分以上あるのだが、日直の門限は四十五分、走って間に合うかどうかという時間だ。足運びも心なしか早くなり、朝方の静かな道に二人分の足音がリズミカルに響き渡る。

「遊馬」
「んー、何?」
「急がないと遅刻するぞ」
「いいよ、遅刻したって」

 疲れたし、と一言呟いてペースを落としアストラルの隣に並んで、遊馬は明るくへらりと笑った。

「……、そうか」

 それにまた、アストラルも小さく笑んだ。静かに閑かに、朝は二人の背を追い抜いていく。



ピ ン ク ス ニ ー カ ー レ デ ィ


2011.12.01


 

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