総勢七名が畳の上に正座させられているその様子と言ったら、不審というか憐れというか、なんにせよ碌でもない光景であることに変わりはなかった。丁度タイミング悪くやってきてしまった風也が、扉を開けた瞬間、なぁにこれぇ、と声を上げたのも致し方ない事であろう。
 七人の不審者は揃って不安の色を浮かべ、その視線の先ではミハエルと凌牙が仁王立ちし、幾分離れた場所に据えてあるソファでは遊馬が恐る恐るといった具合にその様子を見守っており、まさしく混沌、渦巻く空気は魔界のそれのごとく息が詰まる。明らかに負のオーラを放っている計九名が集う畳を避けるようにして、風也は遊馬の隣に腰掛けた。

「……で、何しに来たんですか、クリス兄様、トーマス兄様、ゴーシュさん、ドロワさん、カイト、ミザエルさん、ドルベさん」

 口調はそこそこに丁寧ながら声音は冷酷そのもの、冷え切った言葉を投げかけられた七人は文字通り顔面蒼白になりながら、各々に弁明を始めようとした。しかし一斉に全員が喋り始めたものだから、誰が何を言っているのかまるで分からない。聖徳太子でも無い限り聞き分けられない騒がしさに、煩い、とミハエルが一喝した瞬間、その場はしんと静まりかえった。
 ここまで怒り心頭なミハエルを目にしたことのない遊馬にとって、目の前にいるのは大魔王に他ならない。今にも泣き出しそうなほど怯えている遊馬を安心させるかの如くそっと肩を寄せて、風也も揃って要すを窺うことにした。

「大学の講義があったんだが、寝過ごしてしまってな、行くのも面倒臭くなってサボったは良いが行く当てもなく、とりあえず来てみたわけだ」
「えっと、俺は、その、今日は特別短縮日課だったし、暇だったから、来たっつーか、なんつーか……」
「俺はそもそも今日の講義取ってねぇからな、暇だから来たに同じく」
「ゴーシュに同じく、私も暇だから来たんだが、迷惑なら帰るぞ?」
「トーマスと全く一緒の理由だ、まあ、今日はハルトも遅くなると言っていたしな」
「右に同じく」
「私もだ」

 不審者軍団の言い分はそこで途切れ、全員が一様にしゅんと黙り込んでしまう。ミハエルはその理由を耳にして、長髪のクリスと呼ばれた青年を除く六人に優しく微笑みかけ、皆さんはゆっくりしててくださいね、と大分優しく告げた。言うが早いか、六人は一言も発さぬままに起立すると、転けんばかりの勢いで遊馬達の元へとやってきて、随分と怯えた色を見せながら二人の様子を見守り始めた。
 なんだか盾にされている気分だ、ちらりと遊馬が目をやれば、トーマスと呼ばれた十字傷持ちの青年とかっちり目が合った。トーマスはすまんとでも言うように両手を合わせて謝罪のポーズを取ると、遊馬や風也にだけ聞こえる程に小さな声で呟く。

「ミハエルな、あいつキレると冗談抜きでやば、」
「このド腐れニートがァァァ!!」

 そんな呟きを掻き消すような怒声が響き渡った。恐ろしくドスの利いた声音に、不審者軍団は揃って悲鳴を上げながら遊馬達の陰に隠れ、遊馬はと言えばぴゃあと泣きながら風也にしがみつき、風也も風也で美貌は引き攣りっぱなし、平生を保っているのは凌牙ただ一人という有様である。
 大魔王の様相を浮かべるミハエルの何と恐ろしいことか、遊馬はその姿に悪魔の如き二本の角と黒々とした羽根を幻視した。心なしか窓の外に生える木々までもが怯えたかのようにざわめいている気がする、其程に今のミハエルは恐ろしかった。そんなミハエルの前ではクリスが三つ指を突いて見事な土下座を披露しており、年上すらもひれ伏させる剣幕に遊馬と風也は抱き合いながら、うわぁ、と悲鳴ともなんともつかないような言葉を零した。
 そしてこれから約一時間、遊馬達は胃を締め上げるかのような説教を目の当たりにすることになるのだった。



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