02
 


人生初の告白をしてから一週間。返事はまだもらえてない。ちゅーかもしかしてこれは、遠まわしに振られたんか?俺。


一週間前、俺はついに云うた。告ったんや。
人気のない所まで連れてって、一先ず深呼吸を一つ。本当に、心臓が壊れるほど、緊張した。今まで俺に告白してくれた女の子は、みんなこんな気持ちやったんかと思うと、ほんまになんちゅーか、尊敬に値するわ。高三にして、ようやっと告白の重みがわかった気がした。

『名字さんが、好きや』

『つきあって、ほしい』

ちゃんと瞳を見て云うた。気持ちも真っ直ぐ届いたんちゃうかなって思う。100%伝えるんは、俺の気持ちがでかすぎてさすがに無理やけど、俺の精一杯の告白の言葉やった。(いろいろ考えてんけど、やっぱ無理やった)

沈黙が怖くて、名字さんの手を強く握ってしもたにも関わらず。彼女は何も言わず俺から目を逸らさずに聞いてくれたんや。あんまり長いこと見つめてたらうっかり吸い込まれかねんわ、とか思いながら。片手で口元を隠した。確実に、100%顔真っ赤やったやろうからな。

先に目を逸らしたんは名字さんの方やった。俯いた彼女の耳は、俺から見ても赤いと思う。照れてるんやろか?恥ずかしんやろか?そらそやろなあ。ごめんないきなり。口には出さんと心の中でそないなことを思っていたら、俯いたままの名字さんが口を開いた。

『か、考えさせて、ください』

その言い回しが、声が、あまりにも可愛いくて、俺はもう「わかった」以外の言葉は言えんかった。…めっちゃ可愛いかってんで!ほんまは今すぐ返事ほしかったとこやけど、まあそれで振られんのも…嫌やし。(ヘタレとか思たヤツ順番にコート入れや)

でも、一週間保留されとるんも、なんか、…不安、や。
これで振られたら、ダメージどんだけ食らうと思てんねん!と三日目辺りで既に謙也に八つ当たり済。(「なんで俺に八つ当たりすんねん!」)
教室内におる名字さんは友達の相方さんと談笑中。一週間前の告白なんて、まるでなかったかのように。あれ、夢ちゃうよな?俺ちゃんと云うたよな?妄想とかやない、よなあ?ちょおほんまに不安になってきたんやけど…!


「白石ー、購買行かん?今日俺弁当ないねん」

俺の中の不安は着々と募りながら、気づいたら昼休みや。時間経つのおっそ。早う一日終わってまえや、もう。
謙也は「珍しく寝坊してたらしくてな」とどうでもいいおかんの話をしてきよる。「たまには自分で作ったりぃや」と適当に返しながら、購買に付いていってやるために席を立った、すぐの事や。

「し、白石君!」

教室後方のドアから、女の子に呼ばれた気がしたので、視線を向ける。空耳やなくて、ちゃんと声がする方には女の子がおった。確か隣のクラスの…なんとかさんや。(名字さん以外の女子の名前って覚えにくいねん)
正直心のどっかで、もしかして名字さんかもとか思っとった自分が恥ずかしい。もうなんなんや俺。もう謙也にヘタレとか言われへんわ。いや言うけどな。

「謙也、スマンけど」
「わかってるて、一人でいってくるさかい、行ってき」
「ん、いってくるわ」
「おー」

俺が先やったら食うてるからな、と言って謙也は俺の肩をぽんと叩いた。俺ら二人も慣れたもんや。お互い告白されんのが少ないわけやないからなあ。
まだ告白されるて決まったわけやないけど、あの声の上ずり方とか、十中八九そうやと思うし。
教室を出る際にちらりと名字さんの方を見ると、目が合ってしまった。瞬間、ばくりと心臓が跳ね上がる。え、な、なんで?ちゅーか目合うとか…なんや久々な気する。告白以来微妙に気まずかったし、名字さんに話しかけても俯いてばっかやったから。これは…あかん嬉しい。

俺の世界は、ほんまに名字さん中心に廻っとると思う。目が合うたんが偶然やとしても、それだけで、こんな嬉しいとか。他の女の子に対して絶対に思わんことやから。

教室から出て、一応呼び出された理由を聞けば、「ここじゃ恥ずかしい」と言われた。「人のおらんとこ行こか」、ってなんで俺の方から言わなあかんねん。そう思たりもしたけど、この子が今めっちゃ緊張してるんを考えたら、気ぃ使うて人のおらん屋上まで連れてきてしもた。



「し、白石君が好きです!付き合ってください!」

春の匂いが鼻を掠めて、あ、俺明日誕生日やん、と今気づく。
見たことのない女の子に告白されたことは何度かある。この子は、見覚えがあるんやけど、名前はどうやっても思い出せんし、なんで好きになられたかは更にわからん。俺はこの子にとって何や恋の電撃が体を駆け巡るような事でもしたんやろか。
俺は今でも名字さんに恋に落ちた瞬間を覚えとる。


二年前の、多分丁度今頃や。16になってすぐやったんを覚えとる。出逢いは本当に突然やってくるもんなんやな、と今じゃ懐かしく思う。
学校やクラスにも大分馴染んで来た頃、俺のクラスは席替えをした。その時隣の席になったんが名字さん。最初の印象は、元々可愛い雰囲気の子やなとは思ててんけど、そんな子は他にもおったし、愛想のいいええ子やな、くらいのもんやった。
笑い上戸で、友達も多い。誰とでも仲良くなれるような明るさを持ってて。結構モテるんやろなーとか思って、素直にそれを聞いてみたんや。

『わ、わたしがモテるわけないやん!』
『いや、正直に言うてええんやで。ちゅーか彼氏おらんの?』
『お、おらんおらん!そういう白石くんこそ、やんか」』
『俺?俺はまあ…否定はせんなあ』
『ふは、せんのんや』
『俺が全然モテへんよ、とか言うても嫌味に聞こえるやろ?』
『う、うん、たしかに』

自分のことよくわかってるんやねえ、と関心した様子で俺を見る名字さん。話しとって楽しいし、飽きひん。単純にそう思いよった。

『彼氏ほしいとか思わんの?』
『うーん、どうかなあ』

ふへへ、と誤魔化すように笑う名字さんに、俺は冗談を言うたんや。ほんまに、友達に言う冗談を。

『俺みたいんなんとか彼氏にするん、どうなん?』
『えっ』

案の定名字さんは目を丸くして俺を見た。目ェくりくりしとるなあと思いながら、ニヤニヤしたまま名字さんを待つ。大抵の女友達に今の質問をすると、じゃあ本当に彼女にしてくれる?とか、幸せすぎるかも!、とか言うんやけど(その時は冗談やから、と流すけどな。)、名字さんは違った。予想もつかへん答えが返ってきたんや。

『あんな、白石くん』
『?』

『わたし、B専やねん』

その時俺の体の中を、色んな意味で電撃が駆け巡った。B専?…つまり不細工が好きちゅーことやんな…。え、こんな可愛い顔して、ブス専て。ブス専て!!!

『イケメンさん苦手やからなあ…白石くんの顔も、かっこいいとは思うねんけど…』

タイプやないんよ、と、トドメを刺された気分やった。氷帝の跡部クンほど自意識過剰やないけど、さすがに俺も自分の顔は上のレベルやと思うてたし、整った顔立ちやと思う。せやのに、いや、っちゅーか!タイプやない、とか…初めて言われたんやけど!

『B専って気づいたんは、実は最近なんよ。わたしはかっこええと思てるからね?でも…違うんやて。不細工さんなんやって、わたしがかっこええと思ってきた人』

例えば芸能人とかね、とか力説してくれよるけど、もう全然頭に入ってけぇへんよ名字さん!なんなんこの子めちゃくちゃやん、こんな可愛いのにブスが好きとか、どないやねん!

衝撃を受けた俺が恋心を自覚するのには、そう時間はかからんかった。(素直に受け入れることにしたんや)

そっからはもうただの普通の健全な男子高校生や。
アドレス聞いたり、どっか行こうて誘ったり。二年になってからは、まさかの謙也と名字さんがブス専同士で意気投合するという、ありえへん事態になったりもした。それでも俺は名字さんが、ずっと名字さんのことだけが、好きで、好きで好きで仕方ないねん。謙也にも「白石がこんなに一途やなんて知らんかった」と言わる程や。(言われた時は真顔で睨んだったけどな)


俺が名字さんを好きなくらい、この告白してくれた女の子は、俺のことが好きなんやろうか。心のどっかで、そんなのありえへん、と思っとる自分がおる。まあ実際に、ありえへんのんやけど。何故なら俺はほんまにほんまに名字さんのことが大好きやからや。


「し、白石君?」
「ん?あ、あぁ…スマンスマン」

ボーッとしてたわ、とはさすがに言わずに、不安そうに俺を見上げる女の子に苦笑い。なんて断ろ。告白した経験があると、こうも返事に迷うもんなんか?
傷つけたくない、とか、思ってまう。

「もしかして今、彼女おる、とか?」
「え?いや、…おらん、けど」

好きな子は、おる。よしこれや!と決めて、口を開こうとした時。ガチャリ、と屋上のドアが開く音がした。


肩を上下させながら現れたのは、俺が一週間前に告白した、あの子やった。






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