01
 



「名字さんが、好きや」
「……!」
「つきあって、ほしい」


18年間生きてきた中、俺は生まれて初めて、告白というものをした。


自慢やないけど、されるのは…なんちゅーか、日常茶飯事っちゅーか。まあ、慣れとって。
それは多分、世間一般でいえば、俺の顔立ちが上から数えた方が早いくらいのレベルやからやと思う。他の同性から羨ましがられたり、妬まれたりするのんはしょっちょうやった。

そんな俺が、ずっと女の子からの告白を拒否するのには、2つ程理由がある。
一つは、テニス。
中学の時からテニス一筋で、テニスのことで頭いっぱいいっぱいやった。どうやったら勝てるかとか、毎日の悩みはテニスだけやった。俺は幸せモンらしく、最高の仲間に恵まれていて、その仲間とは今も仲ええし、謙也なんか高校でも二度同じクラスになったし。(現在進行系や)
告白を断るのに、「今は、テニス頑張りたいねん」「せやから、ごめんな」が俺の決まり文句やった。せやけど俺も健全なる"男子"なわけで"女子"に興味がないわけやなくて。ていうかもしそんなん居んのやったら、僧や、僧。付き合ったことがないわけやない。経験値を上げるために、何度か可愛いなて思った子とは付き合った。そう長く続かへんかったけどな。

それから高校に入って少し経って、告白を拒否する理由が新たに一つ、増えたんや。


『なあ、謙也ー』
『おん?』
『俺、好きなやつできたわ』
『ぶふっ…!え、ちょ、は!?マジかお前!!』

高校に入ってもテニスを続けようと思っとって、それは謙也も同じやったらしく、一緒にテニス部へ入部した。一年生はコート整備やらボール拾いやら、全部やらされる。練習も中学ん時より更にハードや。(名門やから当然っちゃ当然か)
トンボでコートを馴らしている最中、俺は唐突に謙也に俺の中で日に日に大きくなっていく恋心なるものを告げてみた。やっぱこんなヘタレでも親友やしな。(案の定ヘタレな反応してくれよった)

『マジやで』
『嘘ちゃうやろな?』
『ホンマやて』
『ちゅーか、え?は?誰?誰なん?同じクラスの奴か?』
『おん』

一年の時は謙也とは違うクラスで、「じゃあ俺が知るわけないわなあ」と頭を掻いて、俺の好きな子の顔が見てみたい、と素直に言ってきた。

『めっちゃ可愛いで』
『なんや、惚気かいな』
『惚気やのうて、世間一般的に見ても、や』
『ホンマに?』
『あーでもアカンわ、お前ブス専やからなー』
『な、だ、誰がブス専やねん!』
『やってお前の前の彼女…』
『…白石ぃ、お前よお傷心の俺にそんな話さらっとすんなあ』

お前のその無神経さどっからくんねん、とあからさまに沈んだ様子で俺をじとりと睨んだ。一気に謙也を取り巻く空気が灰色になってしもた。
謙也はつい最近、彼女に振られたばかりやった。それはお世辞にも可愛いとは言えん彼女で、そんなブサ…ごく普通の女の子が謙也を振るなんて、気の毒やなあってホンマに思う。(謙也は俺よりイケメンやと思うとる)(主に中身が)

そのこともあって、俺の中ですっかり、謙也=可愛いくない子が好き(ブス専)という方程式が出来上がってしもた。次可愛い彼女つくらん限り、この方程式は何度解いても同じ答えしか出えへんで。

『…まあ、俺もその白石の恋をきっかけに、新しい恋みつけよかな』
『なんでやねん。いや、ええと思うで』

俺をきっかけにっちゅーんはイマイチよおわからんけども。謙也が前向きになれるんなら、ええことやと思う。親友としてアドバイスするなら、お前ならもっと上いけるで、やな。世の中には顔も性格もいい子っちゅーんが存在するんや。まさに俺の好きな子みたいにな。

『ちゅーか、どこが好きなん?顔?』
『一目惚れとちゃうねん』
『あ、そうなんや。ほななんでや?仲はええん?』

クエスチョンマークの多いやっちゃなあ、苦笑しながら馴らし終わったコートを見た。んんーっ、絶頂な程に綺麗になってるわ!
謙也とトンボを倉庫に返しにいきながら、質問に答える。

『仲は…よくなくはない』
『…ん、んん?』
『まあ仲はこれから良くなるつもりやねん』

大事にしたかったんや。初恋、っちゅーやつを。
自分から誰かを好きになったことなんかなかったし、好かれてるから、俺も好き。それでいいと思っとった。でも、あかん。
俺が動かな、この恋は動き出さん。誰も動かしてはくれへん。

ゆっくりでええ。ゆっくりでええんや。少しずつ、一歩ずつ、俺の方から歩み寄っていくんや。

『さよか。応援してるわ』
『心込もってへんなあ』
『めっちゃ込めてるっちゅーねん!っ、が、頑張るんやで白石!』

おおきに。と笑って返して俺達は部室へと向かった。



そんな高校一年生の春から二年が経ち、俺は今漸く、名字さんの目の前まで歩み寄れたんや。やっと、ここまで。手を伸ばせばすぐに届きそうなこの距離まで。

運命とか、赤い糸とかがあるんかどうかはわからんけど、俺は確実に神様に好かれとると思う。やって、三年間名字さんと同じクラスやで?これはもう、神様が俺に、名字さんと結ばれなあかんよーって、言うてくれとるようなモンやろ。
張り出されたクラス分けの紙を見た瞬間、俺は決めたんや。

『謙也、』
『おう、白石!また一緒やで俺ら。二年も三年も同じクラスやなんてなあ!今年もよろしゅうなー』
『俺、もうあかん、無理や。こんなん、運命やん』
『え?運命…?なんや気色悪っ!どないしてんお前、いやそら俺もお前と一緒で嬉しいけど、運命ってお前、…て、照れるや『謙也、』…お、ん?』
『いってくるわ、俺』
『…は?え、どこいくん?え、何?何なん?』

『告白や、告白!』

「こ、こくはくぅ!?」と目を見開いて驚く謙也にそう告げて、無理矢理荷物を押しつけたった。なんでお前が顔真っ赤にしてんねん、ってくらい顔を赤くする謙也は散々あわあわと狼狽えた後、「むっっっちゃ応援してんで、せやから、これしか言えんけど、頑張れ!」と拳を俺の胸に当てた。
謙也と名字さんも二年の時から同じクラスで、まあ俺と名字さん程やなけど、仲はええみたいや。ちょおムカつくけど、自分が名字さんと話よる時に、必ず俺を呼んで三人で話そうとしてくれたり、…ええヤツすぎる親友や。
なんであんなええヤツなんやろなあ。口には出さんけど、ほんまに感謝してんで、謙也。心の中でおおきに、と言うてから、俺は名字さんを探しに行った。


好きで、好きで好きでどーしようもなくなって、見てるだけじゃ、話すだけじゃあかんくなって。その笑顔を俺だけに向けて欲しい。俺だけのもんにしたい。俺だけの傍にずっとおってほしいと思う。

俺は高校三年生になったばかりの春、今日。人生で初めて、出来れば、最初で最後の告白になって欲しいと願う。

教室に向かう途中の階段で漸く名字さんを見つけた。あー、やっぱりほんまに可愛い。誰にも渡したない。誰のもんにもならんで。

『名字さん!』

柄にもなく、本当に、俺らしくもない。情けない掠れた声が出てしもて。頭ん中がなんやぐるぐるしてきよって、何を言うんやったか、一瞬ほんまに忘れそうになる。
あかん。あかんあかんあかん!云わな、伝わらん、のわかっとる。
聞いてほしいことが、あんねん。キミに、キミだけに、言いたいことがあんねん。

『白石くん。おはよう』

階段を上る途中で振り返った名字さんは、ほんまに天使みたいに可愛い。いや、もう比喩でも足りひんな。天使みたい、やなくて、もしかしたら本物の天使なんかもしれへん。ふわふわしとって、白くて、なんやマシュマロみたいな肌しとる。その肌に触れたいと、思う。潰れそうになるくらい抱きしめたいし、唇はなんぼほど柔っこいんやろとか、そんなことまで今思わんでいいのに。
余計な邪念や妄想は取り敢えず今はナシや。告白、すんねん、から。

よそよそしい俺の態度にも、首を傾げることなく朝の挨拶をきちんとしてくれる。ええ子やなあ、ほんま。
二年間ずっと、ずっと見てきてん。それなりに一緒の時間を過ごしてきた。去年の文化祭なんか、一緒に実行委員やったくらいなんやで。無理矢理俺が誘ってんけど、それでも名字さんは笑って一緒に頑張ろうと言ってくれた。(ああもう大好きやほんまに!)

『今年も、一緒のクラスやったね。わたし、まっ先に見つけてしもたよ。白石くんの名前』

俺が固まる間も与えず「あ、一緒に、教室行く?」と、嬉しいことばっか言うてきよるこの子はほんまどんだけ可愛いんやろか…!今すぐここで「名前のことが大好きやーーーー!!」と叫んでやりたい。さすがに名字さんが迷惑やろうからせえへんけど。俺は言いたい。全校生徒、いや全国民の皆様に。このかっわいい子が俺の好きな人なんやでって。恋人だったらどんだけええか。

『ちゃう、ちゃうねん』

名字さんの言葉に逐一喜んどる場合やないねん。今日俺は、この目の前の女の子に告白、すんねん。

『ちゃう?わたし、なんかおかしなこと言うた?』
『言うてない。言うてないよ。けど、あんな、』
『うん?』

『聞いてほしいことがあんねん』

キミだけに。そう言うてから俺は名字さんのとこまで歩み寄り、そっと手を握った。びっくりして彼女が目ェ見開くのは、当たり前やんなあ。

『せやから、こっち』


ばくばくと今世紀最大の速さで脈を打つ心臓は、しばらく止まりそうにない。






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